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担保が要らないローン?分散型レンディングプロトコルGoldfinchを徹底解説!

担保が要らないローン?分散型レンディングプロトコルGoldfinchを徹底解説!

Fumiya
Fumiya
Intermediate - 中級2022年3月28日 00時00分

数年前にブロックチェーン技術を活用した分散型金融の仕組み「DeFi」が登場して以来、様々な Web3 金融サービスが生まれました。その中でもレンディングプラットフォームは代表的な例で、現在ある多くの分散型レンディングでは、担保としてローン金額に見合った暗号資産を持っている必要があります。しかし、資金を必要としているほとんどの人は「ローン金額に見合った暗号資産」を持っていません。担保が必要な理由は、借り手の信用度、つまり返済の見込みがあるかどうかを判断するためです。そこで、Goldfinch は、担保を必要としないローンを実現するために、分散的に借り手の信用力を評価する仕組みを作りました。とてもチャレンジングな取り組みですが、具体的にどのような仕組みで成り立っているのでしょうか。Goldfinch の全貌を解説していきます。

Goldfinch の概要

Goldfinch は分散型のレンディングプロトコルです。創設者の Mike Sall と Blake West は、2020年7月にGoldfinchを始める前に Coinbase で一緒に働いていました。これまでに、Andreessen Horowitz を中心に、Coinbase Ventures、SV Angel、Blocktower、Bill Ackman、Heli-cap等から2021年7月に$11M、2022年1月に$25Mの資金調達に成功しており、大きな期待を寄せられている Web3 スタートアップです。

Goldfinchでは、貸出資金となるプールにドルペッグのステーブルコインである USD Coin (USDC) を預けることで、金利を得ることができます。プールは低リスク・低リターンの ”Senior Pool” と高リスク・高リターンの “Borrower Pools” の 2 種類あります。Goldfinch プロトコルは主に4つの参加者で構成されます。

  • Borrower (借り手)

    借り手は、プロトコルを通じて融資を受けたい人です。金利や返済スケジュールなどの条件とともに融資の提案として Borrower Pools を作り、Backers に評価してもらうよう依頼します。

  • Backers (貸し手)

    Borrower Pool を評価し、資金を出すかを検討します。Backers が資金を提供した後、Borrower は Borrower Pool を通じて借入と返済を行うことができます。Backers が提供する資金は、もし融資がデフォルト(債務不履行)になった時、優先的に失われます。

  • Liquidity Providers (流動性提供者)

    金利を得るために、シニアプールに資金を提供します。シニアプールはレバレッジモデルと呼ばれる数式を用いて、Borrower Pool に参加している Backers の人数に基づいて Borrower Pool に自動的に資本を配分します。この時、その金利の一部は Backers に再配分されます。これにより、Backers の実質利回りが向上し、リスクの高い資金を提供するインセンティブとなります。

  • Auditor (監査人)

    Borrower を承認するための投票を行います。Borrower が借入を行う前には必ずAuditor による承認が必要で、Auditors はプロトコルによってランダムに選出されます。不正行為を防止するための人的なチェックを行う役割を持ちます。

  • このプロトコルの最も大きな特徴は、融資用のプールへの供給元が「リターンは小さいけど安定的なパッシブ運用をしたい人」と「リスクは高いけど自分で案件を選んで大きいリターンを狙う人」の2種類から構成されていることです。貸し手がリスクを選択でき、より多くの貸し手を集めることができます。

    借入と返済 の仕組み - リスク分散とインセンティブ設計

    借り手が借りられる金額は Backers が供給する金額と、Senior Pool から割り当てられた金額の合計額になります。借り手は Borrower Pool に借入額の上限を設定する必要があり、Backers に安心して資金を預けてもらえるよう適切な金額にするインセンティブが働きます。

    Borrower Pool を作成するには Auditor の承認コストの2倍に相当する GFI (Goldfinch プロトコルのネイティブトークン) をステークする必要があります。これは悪戯を防ぐと共に、Auditor の承認に必要な報酬を提供する原資になります。ステークされた GFI の半分は最初の Auditor に支払われます。借り手は、借入残高を完全に返済し終えた後、残りのステークされた GFI を償還することができます。

    Borrower Pool は Junior Tranche と Senior Tranche で構成されます。Junior Tranche には Backer が資本を供給し、 Senior Tranche は Senior Pool から供給されます。借りてが返済を行う場合、Borrower Pool はまずその金額をその時点で Senior Tranche が負っている利息と元本に充当し、その次に Junior Tranche が負っている利息と元本に充当します。つまり、Junior Tranche に資金を提供しているBackersの方がよりリスクを負うことになります。Backers と Senior Pool は、資本を供給する際に供給した金額とそのうちどれだけが償還されたかを追跡するための NFT を受け取ります。Backers と Senior Pool は このNFT を使っていつでも Borrower Pool 内の返済を償還することができます。ファンジブルトークンではなく NFT を使用する理由は、返済があったときに、自分の比例配分以上の金額を償還出来ないようするためです。例えば、2人の支援者がそれぞれ 500ドルを提供して合計1,000ドルを借り、借り手がこれまでに合計300ドルの返済を行ったとします。この場合、NFTは各 Backer が 300 ドル全額を自分のために償還するのではなく、これまでの返済額のうち 150ドルまでしか償還出来ないようにします。

    借りた資金を返済するインセンティブ

    重要なのは、借り手が借りた資金をちゃんと返済するインセンティブがあるのか、悪意のある借り手をどう排除するのかということです。Goldfinch は、返済のインセンティブを以下のように説明しています。

  • 支払いに遅れた時点で、借り手はどの Borrower Pool からもこれ以上借りられなくなる。また、借り手が返済に遅れることが続くと、Backer はさらに資金を供給するのをやめる可能性が高い。借り手が今後もプロトコルからの借り入れを希望するかどうかは、Backer の判断に委ねられる。
  • Backer にプールを提案する際、Borrower は自分のアドレスを公開する必要があるため、彼らのオンチェーンでの履歴が、オフチェーンであっても将来の債権者に公開されることです。
  • プロトコルでは明示的にサポートされていませんが、Backer は Borrower とオフチェーンでの法的合意を形成することができる。Backers は、資本を提供するために、直接または他の Backer との間で契約手続きを要求することができます。このような場合、法的な合意や潜在的な償還請求権は、Borrower にとって重要なインセンティブとなります。
  • 資金提供をして金利を得る

    Goldfinch プロトコルに資金をプールするには、運転免許証などの本人確認の書類の提出と顔認証によるKYCの手続きをした後に、証明用のIDとして、NFTを発行する必要があります。NFTの発行費用は執筆時点 2022年3月22日では 0.00083 ETH (約300円)となっています。

    Borrower Pool では、金利や支払いスケジュールなどの条件の他、Backerからの供給金額と Senior Pool からの供給金額や、総額いくら借り入れているかといった情報を見ることができます。

    Senior Pool に資金を提供すると、資金額に応じた ERC-20 トークン「FIDU」がもらえます。FIDU を使うことで資金をプールから償還できます。資金を償還しようとした時、貸し出し状況によっては Senior Pool に十分な資金がない場合があります。その場合は、Borrower が返済するか新しい流動性プロバイダーを通じて Senior Pool に資金が供給されるのを待ちます。

    Auditors の役目

    Auditors は監査役として、借り手が正当な人物であることを人力で確認し、不正行為からプロトコルを保護する手助けをします。借り手がBorrower Pools から借り入れを行うには、必ず Auditor による承認投票が必要です。Auditor には、GFI をステーキングして、Unique Entity Check に合格することで誰でもなることができます。Borrowe Pool が作成され、Auditor の承認投票が必要になると、プロトコルは 9人の Auditor をランダムで選びます。このとき、ステーキングしているGFIが多いほど選ばれやすくなります。投票に選ばれた Auditor は、借り手が正当な人物であるかどうかを評価します。借り手から提供された文書を確認したり、電子メールやビデオ通話を通じて借り手と直接コミュニケーションをとることもあります。これらはすべて、オフチェーンで行われ、Goldfinch のプロトコル上では、最終的な投票だけが行われます。

    Auditor は、選出されると48時間以内に「賛成」「わからない」「反対」のいずれかに投票する必要があります。もし、

  • a) 48時間以内に投票しなかった場合
  • b) 多数決で 「反対」 となったときに 「賛成」 とした場合
  • c) 多数決で 「賛成」 となったときに 「反対」 とした場合
  • GFI は没収されます。もし、「わからない」に投票した場合は、ペナルティはありませんが、報酬もありません。

    Auditor の承認投票の結果によって、以下の3つのパターンがあります。

  • 完全承認

    「賛成」が6票以上、「反対」が1票以下の場合です。 借り手への融資が承認され、Senior Pool は Borrower Pool に資本を配分します。

  • Backers のみの承認

    「賛成」または「わからない」が6票以上、「反対」票が1票以下の場合です。借り手への融資は承認されますが、Senior Poool は Borrower への資本配分は行いません。

  • 否決

    反対票が2票以上ある場合、または上記の承認基準に満たない場合です。借り手への融資は承認されません。

  • Audtior は、GFI報酬を得るために正しく投票するインセンティブがあります。また、投票に参加できるようにGFIを多くステーキングするインセンティブもあり、プロトコルの長期的な成功に自然と連動しています。

    融資を受けている人はどんな人?

    アメリカではプールに資金を供給して利回りを得ることは証券法の規制の対象となり、現時点ではアメリカ人は Liquidity Pool Provider 及び Backers にはなれません。アメリカ以外の国を対象としており、 DIscord を見る限りはイギリスやドイツ、スペイン、イタリア、中国、ロシアなど様々な国の人が資金の出し手となっています。融資先としては、2022年1月の時点では以下のような内訳になっています。

    ケニア、ナイジェリア、ウガンダ、フィリピンなど、比較的融資を受けることが困難である発展途上国が多くの融資先となっています。Borrower となっているのは個人ではなく事業者で、プールからステーブルコインを引き出して、ローカル市場でローン事業を展開しています。例えば、Tugende は、東アフリカを拠点とする新興企業で、バイクタクシーを借り手に貸し出し、借り手は支払い計画を立ててバイクを購入する仕組みになっています。また、インドを拠点とする Greenway は、低所得世帯向けにクリーンな調理用コンロを製造し、貸し出しています。このように、プロトコルはブロックチェーンによって分散化された融資のプロセスを提供する一方で、実際のローンの組成とサービシングは、扱いに慣れた事業者に任せています。

    総論

    今回は、銀行以外の潜在的な貸し手のプールを広げる分散型レンディングプラットフォームである Goldfinch をご紹介しました。オンチェーンに止まらないサービスを提供する場合は、オフチェーン上の取引や、その取引の参加者をどう “Can’t be evil” にするのかが課題となります。Goldfinchの場合、悪意のあるBorrowerは、Auditor と Backer の両方を騙す必要がありますが、Auditors はランダムに選ばれるため、共謀することが難しくなっています。また、リスクの高い資金を供給する Backers は、投資先を綿密に分析しようとするはずです。そのため、Backers は 借り手をより詳細に調査し、Borrower と直接コミュニケーションを取ることが考えられます。加えて、Backer は Borrower とオフチェーンでの法的な契約を結ぶことも考慮に入れられています。クリプトの世界では DeFi や GameFi などオンライン完結するものが盛り上がっていますが、オンラインに留まらない取引をどのように信頼できる仕組みで成立させるか、多種多様なプロジェクトが立ち上がっており、キャズムを超えるようなサービスの登場が期待されます。

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