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将来の REIT はこれで代替される? 不動産金融の世界で DeFi の実現を狙う CitaDAO とは

将来の REIT はこれで代替される? 不動産金融の世界で DeFi の実現を狙う CitaDAO とは

George
George
Intermediate - 中級2022年1月5日 00時00分

不動産で DeFi を実現する? CitaDAO とは

CitaDAO はブロックチェーンを利用して不動産流通を変えるチャレンジをしているプロジェクトです。筆者はホワイトペーパーを読んだり Discord に参加して CitaDAO がどのようなものか探ってきました。CitaDAO は Propy や RealT のような不動産ブロックチェーンのプロジェクトが示しきれていなかった新しいライフサイクルの提案をしています。

不動産 × ブロックチェーンの分野は 2016 年頃から盛り上がりを見せてきました。しかし過去の記事で紹介したように、しかしどのプロジェクトも契約処理全体の分散化にはまだ至っておらず、中央管理の処理が依然として多く残っています。また多くのプロジェクトが資産の裏付けテクニックとして、米タイトル保険の仕組みやデラウェア州の Series LLC を活用している背景があり、マーケットが限定的になる問題を抱えています。

他方で CitaDAO はもう少し柔軟な "仕組み" 自体を提供しているブロックチェーンプラットフォームのようです。プロジェクトはまだ初期の段階ですので、今後 v2 になるにつれてまだ見えていないビジネスの実態が明確になってくると思います。

CitaDAO のミッションは意外と普通?

ホワイトペーパーを読むと、CitaDAO もまた不動産業界の問題をブロックチェーンによって解決しようとしていることがわかります。ただ、彼らが提示するビジネスの機会や業界の問題点は Propy や RealT などの他の既存プレイヤーが指摘している点と大きく変わることはありません。

例えば指摘されている点は下記です。

  • 不動産は全世界で 281 兆ドルのマーケットである (= マーケットが大きい)
  • 不動産は S&P 500 を常に上回るパフォーマンスのアセットである (= 収益性が高い)
  • 不動産は世界で約 140 兆ドルの資金がロックされており、投資もされず経済の活性化に利用されていないなど資本効率が悪い (= 不動産の多くは活用されていない)
  • 不動産の流動性は非常に低く、平均的な取引には何ヶ月もかかる (= 流動性が低い)
  • 不動産契約の執行にはコストがかかり、膨大な事務処理が必要で、しかも手作業が多く、拡張性がない (=取引のコストが高い)
  • これでは他の不動産ブロックチェーンのプロジェクトと世界観があまり変わりません。しかし、下記の文章に注目すると彼らが本当に成し遂げたいことがわかってきます。

    不動産所有構造は、地域の土地法や税法の違いにより、非常に制約が多いその結果、資本効率の悪さを招いています。家主がロックされた資本を効率的に再配置してリターンを最大化したり、不動産ポジションをヘッジするための選択肢は限られています。不動産の世界でコンポーザビリティが実現すれば、イノベーションが促進され、資本効率が向上します。

    CitaDAO のミッションは、不動産へのアクセス性、流動性、コンポーザビリティを向上させることで、投資家がグローバルに不動産に投資する方法を近代化することです。

    どうやら彼らは "住まいとしての不動産" よりも "資産としての不動産" に興味があるようです。CitaDAO のファウンダーは世界大手の金融機関や不動産サービス企業に勤めた経歴があり、不動産流通における主に金融的側面にフォーカスしたキャリアを送ってきました。そのため、CitaDAO のモチベーションとして「不動産の資産としての流通」にフォーカスがいくのは当然かもしれません。

    次の章では、CitaDAO が金融資産としての "証券化された不動産" をなぜブロックチェーンで実現しなければならないのかについて触れていきます。

    CitaDAO のアプローチ

    CitaDAO がブロックチェーンで既存の不動産マーケットを変えるアプローチは以下の 4 つです。

  • 不動産を Fractionalize (断片化) することにより、多額の資金を必要とせず、参入障壁を低くし、アクセス性を向上させる
  • Automated Market Makers (AMM) による流動性の向上により、価格の透明性を高め、不動産の価値を高める
  • DeFi Composability による資本効率の向上と、不動産資産の効率的な担保化を実現する
  • ブロックチェーンで取引効率を向上させ、取引コストを削減する
  • 3 つほど重要なキーワードが出てきました。ここでは少し時間をとって Fractionalize、Automated Market Makers そして DeFi Composability について不動産の観点で触れたいと思います。

    Fractionalize

    Fraction とは分数のことですが、ここでいう Fractionalize は NFT を断片化 (分割) して取引可能にすることを指します。また断片化された NFT のことを Fractionalized-NFT、Fractional-NFT、F-NFT といいます。

    ここで不動産を例にして考えてみましょう。5000 万円の不動産をトークン化しても 5000万円を用意して該当トークンを購入できる人は限られています。一方でそのトークンを 1000個に分割して、5万円で売り出したらどうでしょう。だいぶ手に取りやすくなりましたよね。現在、不動産のトークン化はほとんどがこの手法で実現されています。

    Automated Market Makers

    次に、Automated Market Makers とは自動化されたマーケットメーカーのことで、分散型取引所 (DEX) を動かす基礎となるプロトコルです。中央集権的な取引所や関連するマーケットメイキング技術の必要性を排除するための自律的な取引メカニズムのことを指します。イメージとしては東京証券取引所が24時間365日、無人で自動的に運営されているようなものです。不動産を誰の手も介さずにいつでも取引できる世界が実現されれば革新的ですよね。

    DeFi Composability

    最後に DeFi Composability についてですが、これは DeFi (分散型金融) における構成可能性を指します。直感的に分かりにくい概念ですので下記にポイントを箇条書きに示しました。

  • DeFi の世界ではスマートコントラクトを自由に作ってブロックチェーン上にのせることができる
  • スマートコントラクトは単純化すると「A さんが スマートコントラクトに X をインプットすると、スマートコントラクトが実行されて X は B さんの所有になる」というようなプログラムが世界中に公開され、誰もが実行できるようになっているものである
  • 誰もが使えるということは、複数のスマートコントラクト(=プログラム) を新しい価値として誰かがつなげて提供することができる
  • レゴブロックのように複数のスマートコントラクトをつなげると単一のプロダクトでは不可能に近い、多様な機能の提供が可能になる。例として レンディングなどが挙げられる。
  • 少しは分かりやすくなったと思います。今の世界で株を買うときのことを考えてみましょう。例えば今みなさんが任天堂の株を買おうと思うと、SBI 銀行の普通預金講座にある日本円を、SBI 証券口座に移し、SBI は 東京証券取引所 に問い合わせ、その他のさまざまなブラックボックスな処理を経てようやく任天堂の株が手に入る流れになります。しかし、DeFi Composability が実現されるとそれらの処理が自動で行われる巨大なプログラムを作ることができます。

    もしこれが不動産取引でも実現された場合、さまざまなマーケットの全く異なる慣習や契約スタイルを持つ不動産に対して、同一のスマートコントラクトを入り口にして投資をすることができるようになるかもしれません。

    DeFi の実現こそが CitaDAO のミッション

    CitaDAO は Propy や RealT よりは一歩進んだアプローチをとっています。彼らは不動産金融の世界で DeFi を実現しようとしており、プラットフォームにおける高い流動性の実現により、関係者に長期的な利益がいくような設計になっています。

    そのため彼らにとってのプライオリティは、中央集権なプロセスを取り除くための "不動産業界の DX" や、登記しなくても流通できるようにするための "不動産のカプセル化" ではないように見受けられます。彼らはそれよりも "REIT の代替となる不動産証券化の DeFi プラットフォーム実現" や、"プラットフォーム実現のためのコミュニティ構築" の方に関心があるようです。

    今後、理想的な形で DeFi Composability の実現がかなえば、CitaDAO のアセットを不動産流通の目的だけでなく、その他の取引における "裏付け" として使える時代が来るかもしれません。

    CitaDAO は成功するのか? 立ちはだかる 3つの課題

    CitaDAO は上述したように、非常に意欲的かつ初期の Propy や RealT が提示しきれていない不動産金融におけるコンセプトや DAO を取り入れてプロジェクトをスタートしています。しかしいくつかの問題があります。ここで 3点ほど今後の課題を挙げたいと思います。

    1. 既存の 不動産 × ブロックチェーンプレイヤーも進化している

    まず、初期から 不動産 × ブロックチェーンの挑戦をしている Propy も 2021 年の段階でホワイトペーパーを刷新し、タイトル保険を用いた DeFi 分野への参入の意欲を示していることです。下記は 2021 年の Propy のホワイトペーパーからの抜粋です。

    不動産の一部または全体をNFTすることが可能になれば、NFTは暗号の世界の担保となり、"暗号住宅ローン "や "暗号 HELOC(Home Equity Line Of Credit)" が開放されます。NFTの所有権を安全にするために、業界が次に必要とするのは「暗号保険基金」です。Propy は、独自の技術的、法的ソリューションとパートナーシップによって、この革命を起こすことを約束します。

    Propy も、今では現実的な金融商品としてのソリューションを手にビジネスを進めています。今後は、その他の既存プラットフォームや新興プラットフォームも追従する流れになるかもしれません。

    そもそも、Propy と CitaDAO のプロジェクトスタート時期には 4年以上の差があります。当時は DeFi や NFT、さらにそれを分割した Fractionalized-NFT などのコンセプトがブロックチェーンの世界の中でも広く周知されていたとは言えません。ましてや Twitter のトレンドに NFT という言葉が取り上げられることはありませんでした。ホワイトペーパーがいかに優れているのかはそこまで重要な点ではなく、真に重要な点はプロジェクトのインプリメンテーションであるのは言うまでもありません。CitaDAO が "既存のコンセプト" をどのような形で実現するのかは今後の不動産ブロックチェーンプロジェクトのヒントになると思います。

    2. コミュニティの巻き込み

    次に難易度が高いのが コミュニティの巻き込み です。おそらくこれが一番難しいのではないかと思います。web3 とは web 2.0 までの世界を支配してきた組織に対する挑戦としても捉えることができるでしょう。もし web3 の世界で従来の利権者による権利氾濫が起こった場合、該当のプラットフォームは危機的状況になるかもしれません。

    Twitter の元 CEO の Jack Dorsey も下記のように述べています。文脈を補いながら意訳すると「web3 は (分散化といっても結局のところ) VC などの巨大な中央集権組織が背後にいる。究極的にいうと web3 は web2 に違う名前をつけてみただけだ。」と言ったところでしょうか。

    不動産業界は、数兆円規模の歴史ある企業がゴロゴロいる業界です。コミュニティやパートナーなどの関係者の巻き込みを誤った途端、プラットフォームは公平性や従来のコンセプトを失うことになりかねません。

    DeFi における取引所や中心エコシステムのポジションは非常においしいポジションでるのは自明です。多くの人が特定のプラットフォームを経由して取引をすれば手数料も取れますし、該当プラットフォームを表すトークンの価値もどんどん上がっていくでしょう。CitaDAO のような新興プレイヤーから、既存の巨大なプレイヤーまで、誰もがそのポジションを狙っています。

    CitaDAO が勝てるかどうかはプラットフォームやエコシステム構築のスピード勝負だけではなく CitaDAO で扱われる "金融商品の高いパフォーマンス" という側面も非常に重要になってきます。

    3. プラットフォームで展開される金融商品の高いパフォーマンス

    DeFi の世界で金融商品としての戦いをする場合は、既存の巨大権力が持つ金融商品よりも高いパフォーマンスが出る商品で勝負をする必要が出てきます。

    例えば、Bored Ape Yacht Club の NFT が高値で活発に取引されている背景には、その希少性から "所有したい・それを見せつけたい (FLEXしたい)" という人間の自己顕示欲があります。Bored Ape Yacht Club は決してコモディティではありません。一方で不動産の場合はどうでしょう。不動産がセキュリティトークンとして流通した場合、それが著名な建築家による建築物などのプレミアがついている物件でない限り所有欲は満たされないでしょう。

    では、投資家が所有欲が満たされないトークンを持つ理由はなんでしょうか。誰が好き好んで "不動産のようなハネない資産" をわざわざ不安定な新興プラットフォーム上で持つというのでしょうか。CitaDAO はどこかのタイミングで彼らのプラットフォームで供給されるトークンが、既存プレイヤーの投資不動産や REIT よりも金融資産として価値が高いことを示す必要が出てきます。その価値とは流動性、安全性、利回りを含めた総合的な資産価値です。

    資産としてのパフォーマンスの高さで叩き合う勝負を挑むにはお金が必要です。彼らが今後頼るのは誰になるでしょうか。VC、伝統的な巨大不動産企業、既存の web 2.0 のプレイヤーでしょうか。それとも web3 らしく"名もない、信頼もされない者たちの寄せ集め" で巨大権力に立ち向かうのでしょうか。

    これまで 3 つの課題を取り上げましたが、CitaDAO 以外のプロジェクトもどのようにポジショニングをするのか、だれとパートナーを組むのかの目論見がそれぞれ異なります。そして、それに応じてプロジェクトの方向性がガラリと変わっています。この点は非常に注目すべき点です。

    総論:金融業界のプレイヤーなのか、不動産業界のプレイヤーなのか

    この記事では CitaDAO のプロジェクト概要を取り扱いました。不動産ブロックチェーンの世界では、金融商品としての不動産証券を扱う分散型金融業界のプレイヤー になるのか、それとも不動産取引という部分にコンテキストを絞って 不動産取引のプロセスを効率化するプレイヤー になるかで、アプローチが異なってきます。それらのことは二極化するわけではなく、グラデーションでどちらに偏るのかの意識の差でもあります。

    CitaDAO は上述した通り前者の意識が強いです。その他のプロジェクトも DeFi ハブとしてのプロジェクトが増えてきているように思います。 この流れはパブリックチェーン活用の世界に NFT という初めての暗号通貨以外の成功事例が出てきたことや、DeFi のコンセプトや、Ethereum のアプリケーションレベル標準である ERC が定まってきた事に影響されています。

    一方でそれと同時に、既存の不動産ブロックチェーンプレーヤーが、「不動産取引のプロセスの効率化で一部の物件をトークン化しただけでは頻繁な取引に耐えうる流動性は生まれないこと」を課題に思い、ビジネスの範囲を伸ばしていった結果ともいうことができるでしょう。今後はどのようなバランス感のプロジェクトに CitaDAO がなっていくのか楽しみです。

    最後に

    この記事で取り上げなかった重要な点が一つあります。それは なぜ CitaDAO に DAO という文字が入っているのか という点です。

    CitaDAO のホワイトペーパーは不動産のライフサイクルにおける DAO の役割について興味深い示唆を与えています。このことに関しては次の記事で扱いますのでお楽しみに。

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