不動産競売はスマートコントラクトで自動化するともっと良くなる!韓国発 LANDBOX を解説
韓国に新しいブロックチェーンのサービスがあることをご存知でしょうか。
この記事では韓国の江南 (Gangnum / カンナム) を拠点にして活動している新興不動産企業である NextIB が進める不動産ブロックチェーンサービスをみていきたいと思います。
不動産オークションのブロックチェーン?
まず NextIB の企業についてみていこうと思います。彼らは 韓国の企業で、LANDBOX という不動産ブロックチェーンサービス運営しています。なおティッカーシンボルは $LAND ですが、この $LAND は Landshare という米国のブロックチェーンサービスとも被っており、2021 年現在では米 Landshare のほうがメジャーですのでご注意ください。
LANDBOX は 2019年の 9月にリサーチを開始し、2020年にサービスをリリースしたということですので、比較的新興のサービスになります。彼らの NextIB 本社は江南ですが、LANDBOX Limited. は香港にあります。日本のブロックチェーン関連組織が少なからずシンガポールにベースをおき始めている現状を考えると、LANDBOX もおそらく韓国だけで完結させるには難しい状況があったのではないかと思います。
彼らは LANDBOX と Auction OK というブランドのもとで下記 を代表とする一連のサービスを展開していますが、グローバルには LANDBOX のブランドで事業を進める姿勢が感じられます。
それぞれの役割は、LANDBOX がトークン・スマートコントラクトなどの一連のブロックチェーンの仕組みを指し、Auction OK は UI を含めたオークションサービスのことを指しています。この分野ではユーザーに向けた教育が欠かせないため、Auction OK School としてユーザー向けに学習サービスを提供しています。この点は米国の Propy がやっている Learn to Earn の施策に近いものを感じます。
LANDBOX は、ブロックチェーンベースのグローバルな不動産投資情報共有プラットフォームを提供し、不動産情報と投資家を結びつけることを目標としています。
彼らは韓国政府から出資を受けている KOSME という中小ベンチャー企業振興団体のプログラムに加入しています。このプログラムには送金アプリの Toss や O2O不動産情報アプリ Zigbang も加入しており、ユニコーンへの近道と目されているようです。(参考記事:「블록체인 부동산 경매 플랫폼 ‘경매야’, 청년창업사관학교 11기 최종 선정」)
オークションの類型と Auction OK
前述したように、彼らはブロックチェーンを利用した不動産オークションサービスとして Auction OK を提供しています。そもそも彼らが不動産オークションサービスを開始するに至ったモチベーションは、既存の不動産オークションの仕組みに対するフラストレーションからでした。
不動産競売に関しては、韓国も日本と同様に最高価格入札制を採用しています。密封入札方式とも呼ばれ、最終的に最も高い価格を提示した人間が勝利する方式です。後述しますが、このスタイルでは必ずしも結果が最適化されない問題があります。また韓国では COVID-19 の影響で "Level 4 social distancing rules" が施行され、オフライン中心の不動産オークション法定がほとんど中断されたり、入札期日が延期されているなど、オフラインで実施されていることにより起こる弊害もあるようです。
上記のような背景があり、適正なオークションとオンラインで完結する不動産流通を目指し、彼らは不動産オークションのブロックチェーンサービスを作っています。
しかしこのサービスの本質を知るにはそもそも "オークション" というものにどんな種類があるのかを知る必要があります。
実は色々ある。オークション類型
それではオークションの種類についてみていきましょう。オークションは公開の有無に応じて①公開オークション方式 (open-outcry bidding)と ②入札方式 (sealed bid) に分けられます。
①公開オークション:イギリス式とオランダ式
イギリス式オークション (English Auction) は、オークションが始まった時からそれ以上の価格が提案されない場合、最終的に最高価格を提示した人が落札することになります。これは、"Ascending Auction" と呼ばれ、伝統的に芸術品などで行われてきました。皆様が馴染み深いヤフオクもこの Ascending Auction の形式をとっています。
一方で、オランダ式オークション (Dutch auction) は、オークションの開始時に売り手が最高価格を提案し、買い手が購入意思を明らかにするまで価格を下げる方法で、"Descending Auction" と呼ばれています。オランダの花市場から始まり、ホテルの部屋などの時間が経つにつれて、その価値が喪失していったり、完全に喪失する商品などに多く利用されています。
②入札制:最高価格入札制と第二価格入札制
最高価格入札制(first-price sealed-bid auction)は密封入札制とも呼ばれ、それぞれ希望価格を販売者に提出した後、最も高い価格を提示した人が勝利する非公開競争方式になります。これは日本の不動産競売物件情報サイトで見れるような不動産の競売においても利用されている方式です。
第二価格入札制は、ヴィックリー・オークションとも呼ばれ、最高価格入札制と同じく非公開に進行されます。落札は一番高い価格を付けた人に行われますが、二番目に高い価格で支払が行われることになります。売り手にはイギリス式オークションほどの収益を保証し、買い手にはリーズナブルな価格を提示してくれるモデルです。
このヴィックリー・オークション、びっくりするほどブロックチェーンと相性が良いんです。
不動産取引にて公平な取引を支援するヴィックリー・オークション のスマートコントラクト
日本も韓国も、不動産オークションは最高価格入札制です。しかし本来は「売り手の収益を保証」することと「買い手にはリーズナブルな価格で取引ができるようにすること」が重要ですので、不動産取引においてはヴィックリー・オークションの方が合うのではないかというのが LANDBOX プロジェクトの主張です。ヴィックリー・オークションについてもう少し見てみましょう。
ヴィックリー・オークションとスマートコントラクト
ヴィックリー・オークションは、前述した通り公的に進行されるオークションとは異なり、オークション参加者が互いにどのような価格に応札したかを確認できない密封入札取引に該当します。参加者はそれぞれ入札を他の人が見えないように提出し、入札者の中で一番高い価格を書き出した人が対象のものを購入することができます。面白い点が、最高入札者が払う金額は最高額ではなく、2 番手の人が書き出した金額になるということです。例えば、田中さんが 5000 万円、佐藤さんが 4000 万円、井上さんが 3000 万円を書いた場合、田中さんが購入の権利を得て、4000万円支払うことになります。
一見、売り手が損害を被る仕組みのように見えるかもしれませんが、実際は少し異なります。この場合、2番目に高い金額を支払うというシステム自体が入札者がより高い価格を書こうとするインセンティブになるため、むしろより多くの金額を売り手は稼ぐことができる可能性があります。一方で入札者は自分が高い価格を書いても、2番手の適正な価格で買うことができるので、あえて低い価格を書いて様子を見る必要がありません。
しかし、ヴィックリー・オークションにも一つの弱点があります。それはオークション主催者が価格を操作できる可能性があるという点です。主催者側がマージンをより多く受け取るために、入札金額をこっそり確認した後に最高額より少し少ない金額を書いた場合、最終的に落札者は高い値段を支払うことになってしまいます。先ほどの例で言うと、5000万円の入札をした田中さんの札をこっそりオークション主催者が確認して 「斎藤 4500万円」と書いて提出した場合、田中さんは本来払う 4000万円ではなく 4500万円を支払う必要が出てきます。これでは公平ではありません。この例からも、ヴィックリー・オークションが成立するには、主催者が 100% 信頼できる相手でなければならないという条件があることがわかります。
このような弱点はブロックチェーン技術で克服することができます。スマートコントラクトの中でヴィックリー・オークションの取引を実現することは、不動産オークションの信頼性、安定性、透明性を確保するには最適な方法でもあります。
LANDBOX は 2021 年5月にブロックチェーンを活用したオークションサービス提供方法に関する特許を取得しています。オンライン不動産オークションとしては初特許登録のようです。(登録番号:第10-2250084号)
Businesswire の記事を読むと、この特許にはオークション入札の暗号化と、ブロックチェーンネットワークにおける情報の保存と管理の方法が含まれています。入札期間が終了すると、ブロックチェーンネットワークに暗号化された入札が復号化されて比較され落札者が決定されます。入札記録は、カカオのブロックチェーン子会社である GroundX の提供するブロックチェーンプラットフォームである Klaytn ネットワークに保存されます。このネットワークはブロック作成の高速化、高い拡張性、優れた安定性が特徴とされています。
LANDBOX と今後の運営についてわかっていること
ここまで、ヴィックリー・オークションの素晴らしさと、それをブロックチェーンで実現できる可能性について扱ってきました。では、LANDBOX はオークションサイトとして何を提供するのでしょうか? まだ多くは開発中のようですが、現在わかっていることについて扱い、この記事を終わりたいと思います。
LANDBOX について理解するためには ホワイトペーパーを読むのが良いでしょう。彼らは 3 種類の事業を展開することとしています。
本質的に重要なことは 1 と 2 をどのように提供するのかという点です。オークション自体は不動産取引の一部のプロセスでしかありません。現段階のホワイトペーパーでは、既存の不動産ブロックチェーン企業である 米Propy や 米RealT が示しているような不動産ライフサイクルに関しては多くが語られていません。特にグローバルでの取引を実現させるためのインセンティブとしては、ヴィックリー・オークションだけでは足りないのではないでしょうか。また、3 のLAND-fi のパートではトークンの扱いに関して下記のようなことを述べています。
LANDトークンを導入する目的は、LANDBOXプラットフォーム上のエコシステムで交流する参加者間の便利で安全な決済手段を提供することにあります。
LAND トークンは単純な ERC-20 のトークンで、エコシステム上での決済手段を提供しますが、彼らのホワイトペーパーは彼らの NFT 提供の方法に関する方法を提示しておらず、どのようなマーケットにリスティングされることになるのかも不明です。順当に考えると、Klaytn の KIP-17 (ERC-271 の派生) を採用するのではないかと思いますが、そのリスティングや配布方法も詳しく示していく必要があります。
投資家にとっては、彼らがどのように現実世界での不動産の移転を試みるのかは非常に重要な観点です。ホワイトペーパーはブロックチェーン技術を使ったオークションのイノベーションへのフォーカスが強いものになっています。
彼らが不動産オークションのスタンダードをどのように狙いに行くのか、どのように各国の税制や法の問題を解決してグローバルに不動産トークンを流通するのか、今後のプロジェクトの展開が楽しみです。このサイトでも LANDBOX のアクティビティに関しては継続してキャッチアップしようと思います。