米国不動産を秒で買える RealT を解説!不動産ブロックチェーンの現実と課題
米国の不動産をトークン化する RealT
この記事では、米国の不動産をトークン化するシステムを提供している RealT について取り扱います。RealT は米デラウェアに拠点を置く Real Token LLC が中心になって運営しており、 従来の不動産所有権が提供するすべての法的権利と保護をブロックチェーン技術を通して提供しています。RealT のホワイトペーパーを読みながら、どのように RealT がユニークなのかを見ていきましょう。
そもそも、なぜデラウェアなのか?
過去に Propy の記事で米国のタイトル保険を媒介にしてトークンの裏付けをするテクニックを使った旨を記載しましたが、RealT ではまた違ったアプローチで不動産のトークン化をおこなっています。
Real Token LLCは シリーズ LLC として運営されています。シリーズ LLC は会員権、資産、運営を独立したシリーズに無制限に分離することが設立証明書で明確に認められているユニークな形態の有限責任会社です。
Real Token の各シリーズは、独立した事業体として以下のように扱われます。
今後は RealT が将来的に実装を予定しているイーサリアムの IPFS(Interplanetary File System)の利用により、トークン保有者による不動産の所有権を証明するすべての必要書類に、いつでも、誰でも、どこからでもアクセスすることができるようになるとのことです。
そもそもシリーズLLC ですが一般的に企業設立に採用される類のものではなく、不動産やその他資産の管理などを目的として限定的に利用される法人を設立する際に採用されます。デラウェア州ではこのシリーズLLC を組成することができるという特徴があるため、RealT はデラウェアに拠点を置いたということになります。日本はブロックチェーンや暗号通貨関連の法が厳しいという話は至る所で聞きますが、アメリカに関してもブロックチェーンでサービスを展開する企業は法や制度をハックしながらビジネスを進めていることがみてとれます。
シリーズ LLC のメリット
デラウェア州で LLC を設立するメリットは下記の通りです。
高い秘匿性
デラウェア州での LLC を設立する場合の定款には、会社の名称、デラウェア州内における会社の住所とエージェントの名称と住所の記載があれば足ります。また年次報告書の提出義務が課されていないため,LLCのメンバーやマネージャーの名前、住所を開示する必要がありません。そのため、Corporation と比較すると内部の変更プロセスがブラックボックス化できるほか、秘匿性が高くブロックチェーンを用いた仕組みのために採用するのにはもってこいの仕組みになっています。ちなみに、日本における特別目的会社(SPC) も同様の働きをしますので、このメリットは日本においても享受可能となっています。
税務上のメリット
LLC の最大の特徴として、一定の要件を満たす限り LLC レベルでの課税がなされず、投資主レベルで課税がなされる点が挙げられます。これはパススルー課税とも呼ばれます。一方で、日本法人の直接の米国子会社を LLC とする場合で、当該 LLC がパススルー主体であるときは注意する必要があります。残念ながら主に下記の3つの理由から日本でデラウェアに LLC を設立してもパススルー課税によるメリットは限定的になっています。
シリーズ LLC についてさらに詳しく知りたい場合、「近時の法改正をふまえた米国デラウェア州LLCの概要と実務」が参考になりますので、ぜひご参照ください。秘匿性の解説と、税務上のメリットの解説は上記のレポートから一部を引用させていただきました。
Real Token の問題
上のパートでアメリカにおける シリーズ LLC のメリットをご紹介しましたが、一方でその枠組みをそのままブロックチェーンに取り入れるには越えるべきハードルがあります。
シリーズ LLC は LLC のなかで組成されるものの、各シリーズ LLC は独立した存在として扱われ、債務を連帯して負担するものにはなっていません。このように Real Token はそれぞれの物件によって "違う価値を持つ" ことになります。つまり、RealT が A物件と B物件を提供していた場合に、B 物件の価値が暴落したとしても、A 物件の価値には影響がないと言うことです。これはポートフォリオの分散という観点では良いことだと言えます。一方でそれが必ずしもポジティブに働くとは限りません。もう少し詳しく見ていきましょう。
Real Token で取り扱われる物件はもちろん一様ではなく、それぞれがユニークな物件です。例えば、4000 Taylor St, Detroit, MI 48204 の物件は下記のようなプロパティを持っており、1,100 トークンに分割されて販売されています。つまり、このトークンを持っていることで 11.03% の利回りが期待できることになります。この物件のスマートコントラクトはこちらにあります。コントラクトは ERC-20 で定義されています。
一方で、7337 S Yale Ave, Chicago, IL 60621 の物件は 12,500 トークンに分割され、9.3% の利回りが想定されています。この物件のスマートコントラクトはこちらです。
まず第一に注意すべきことは、これが ERC-20 のトークンであって ERC-721 の Non-Fungible Token Standard ではないことです。彼らが提供するのは F-NFT ともいえますが、彼らは ERC-721 ベースのトークン発行はしていないため、厳密に言うと「利回りなどの条件が違う不動産トークンがそれぞれ別の通貨として取引をされている」ということになります。ERC-20 のトークンなので、Uniswap でも交換可能です。
F-NFT に関しては、こちらをご参照ください。
現状 Uniswap 経由でトークンは交換されていますが、トークンを交換しようとすると、全てのトークンにおいて "Insufficient liquidity for this trade" のメッセージが出ます。つまり「売る人がいないので、買うことができない」ということになります。これでは不動産流通を容易にするためにブロックチェーンプラットフォームを選んだのに、流動性が (おそらく) 普通の不動産よりも遥かに低いということになってしまいます。RealT 自体は RealT プラットフォーム内での定額の買取を行っているようですが、投資を考えた時に必ずしもそれがよく働くとは限りません。
下記の多くの問題が解決されないとプラットフォームが成長し続けるのにはハードルが高いかもしれません。
今後、 Real Token が不動産流通においてどのように流動性を確保していくのかは注視していく必要があります。
このように、チャレンジングな課題に挑戦している RealT ですが、かれらはホワイトペーパーに LLC 化したあとに必要となる物件管理についても意識的に記述しています。このことは RealT があくまでも不動産業界のプレイヤー として不動産のトークン化に取り組んでいることを示しているともいえるでしょう。
金融業界のプレイヤーとして、REIT の置き換え商品を開発するつもりでブロックチェーンの世界に入った場合、利回りや管理のし易さ、金融商品としての魅力が優先されるため、必ずしも取引される不動産は物流センターや社会インフラ、商業施設も投資対象となり得ます。マンションをトークン化するとしても、少なくとも管理のし易さを考えたときに 1部屋からのオファリングではなく、一棟という単位になる可能性も高いでしょう。
ブロックチェーンは不動産業界を変革する可能性を秘めていると筆者は信じています。日本でも今後、さまざまなアプローチで業界変革に挑戦する企業が増えてくると良いと思います。