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Web3.0時代の資金調達方法「SAFT」とは?

Web3.0時代の資金調達方法「SAFT」とは?

Fumiya
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Entry - 初級2022年2月9日 00時00分

海外のWeb3プロジェクトの資金調達に関するニュースで、「SAFT」という言葉を目にすることが多いかと思います。トークンを活用した資金調達手法の1つですが、今回はこのSAFT について、概要やどのように活用されているかについてご紹介したいと思います。

なお、記載の情報は記事執筆時点のものであり、その後変更等ある可能性がございますので、ご留意ください。

SAFT とは?

SAFT とは Simple Agreement for Future Token の略で、その名の通り、将来発行されるトークンを割安で購入できる権利と引換に資金を調達する方法です。Web3プロジェクトにおける一般的な資金調達方法となっており、Uniswap や Compound、Near など、現在主流になっているプロジェクトの多くはSAFTで資金を調達しています。トークンでの資金調達の枠組みとして SAFT がよく利用されている理由は、トークンをローンチする前に資金調達ができ、プロジェクトの開発資金に充てることができるからです。また、契約書のテンプレートが公開されているので、様々な条項を交渉する必要がありません。将来トークンを何%安く購入できるかを表す割引率だけを決定すればよく、交渉による資金調達の遅れを防ぐことができます。

SAFTによるトークン付与の流れ

SAFTは前述の通りトークンをローンチする前に締結します。出資者はTGE(Token Generation Event、初めてトークンを生成すること)でトークンを取得することができます。例えば、割引率を40%に設定して1,000万円で権利を購入したとしましょう。無事ネットワークがローンチされ、トークンの一般販売が開始されました。トークンの価格が500円だったとすると、割引価格は500 × 0.4 = 200円になります。購入者はこの割引価格にてトークンを購入したことになるので、1,000万 ÷ 200 = 5万トークン が付与されます。

なお、一般的には一気にトークンが売られてしまうことを防ぐために、「ヴェスティング」といって一定スケジュールで少しずつトークンを付与します。TGE での付与率の相場はシードラウンドの投資家は5-10%、プライベートラウンドは20%前後で、TGEでの付与率が高すぎると、初期の投資家が他人より安く手に入れたトークンを売却し、トークン価格がIDO・IEOを下回り、どんどんトークン価格が下落してしまう危険性があります。最近人気のブロックチェーンゲームである STEPN では、チーム、投資家ともにTGEから1年間はトークンが付与されず、特に長期的な発展を求めるプロジェクトはTGE時でのトークン付与率を低くする傾向にあります。

SAFTが開発された経緯

2017年頃、トークンを使った資金調達の手法として「ICO (Initial Coin Offering)」が非常に人気がありました。ICO関連の調査サイトによると、2017年には235件のICOプロジェクトが立ち上がっており、合計で37億ドルを調達しています。例えば、イーサリアムは2015年に実施した ICO で1,800万ドルを調達し、ETHの価格は0.4ドルから14ドルにまで上昇しました。一方で、当時ICOに関して法律による規制が定まっておらず、調達した資金を持ち逃げしてしまう詐欺案件も多く発生しました。実際に、Bitcoin Market Journal の分析によると、600件のICOプロジェクトのうち、資金調達の終了日まで実施されたものは394件しかなく、その内報告をしっかり行っていたのは35%しかなかったそうです。このような事態を受けて、世界中でICOは規制させるようになりました。

このような流れの中で、アメリカにおいて証券取引委員会(SEC)からトークンが証券としてみなされ、過度な規制を受けるのを防ぐことを目的に、2017年末に Protocol Labs や Cooley LLP によってSAFTが開発されました。

米国のカリフォルニアに拠点を置く有名なベンチャーキャピタル「Y Combinator」が2013年に開発した投資用テンプレートで株式での調達テンプレートとして広く使われている SAFE (Simple Agreement for Future Equity)というものがあり、これを踏襲して作られています。

SAFT の課題

メッセンジャーアプリ「Telegram」が、TONブロックチェーンネットワークと GRAMトークンの開発のために2018年より2回にわたり総額17億ドル超の資金調達をSAFT形式で行いました。しかし、2020年3月24日、ニューヨーク連邦地方裁判所はメッセージアプリTelegramに対し、4月に予定された仮想通貨GRAMの発行についてアメリカ国民及び海外の投資家についても配当を一切許可しないという差し止め命令を下しました。Telegram は、GRAMトークンはまだ発行されておらず、将来のトークン発行を予約する形式であるとして、投資契約ではないと主張していましたが、最終的にTelegramがSECの要求に応じるとともに、調達した約12億ドルの返還と民事制裁金の支払い代金1850万ドルに応じることで決着がついています。この判例により、アメリカではトークンは証券とみなされるようになっているため、SAFTの利用が少なくなっています。

日本での事例はあるのか

結論から言うと、日本ではまだ SAFT を利用した資金調達が行われた事例は見つかりませんでした。その理由は現状の日本の税制にあります。web3プロジェクトにおいて、トークンは必要不可欠なものですが、日本ではトークンを発行すると時価総額に対して税金が発生します。トークンを発行した時は簿価が0円なだけあり、時価総額全額に税率30%がかかる上、これは売却したときのみならず、保有している分(未実現益)に対してもかかります。そのため、実質的に日本でトークンを発行して売り出すことは難しく、それがトークンを使った資金調達方法であるSAFT が利用されない理由です。

似た例としては、2018年にグルメSNS「シンクロライフ」を運営する株式会社GINKANが、香港法人である子会社のSynchroLife, Limitedが発行するトークン「シンクロコイン($SYC)」への転換権を付与した形での、株式の第三者割当増資を行なっています。また、日本人としては「Astar Network」がSAFTによる資金調達を行なっていますが、上記の日本の税制が理由でシンガポール法人を設立、拠点としています。

まとめ

今回はweb3プロジェクトにおいて一般的な資金調達フレームであるSAFTについてご紹介しました。現在公開されているテンプレートは米国証券規制のReg D、Reg Sに準拠して作られた形となっており、アメリカ以外で使うにはその国に応じた法的な調整は必要になります。日本でもトークンによる資金調達が可能な環境が整備され、日本版SAFTが生まれることが期待されます。

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