本当に実現できるの?驚きの利回り 16.81% の不動産トークン
この記事では 米LAND SHARE の提供している高利回りな不動産トークンについてみていきます。
LAND SHAREはアメリカ発のプロジェクトで、不動産の所有権をトークン化することにより流動的な資産にすることを目指しています。LAND SHAREについては過去に「たった50ドルから不動産を持てる!?LAND SHAREとは!」の記事で扱いましたので、詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
暗号資産の世界では利回りが 100% を越す暗号商品もざらにあることは皆様もご承知の通りかと思います。ただし、こと不動産に関しては、数%の利回りを削り出すために多くの努力がなされています。そんな中、LAND SHARE は最近 North Dacota にある1年目のリターンが 16.81% である物件をトークンとして提供し始めました。これは本当に実現可能なのでしょうか。本記事ではその実態を探っていきたいと思います。
どんな物件か
今回取り扱う物件は “817 12th Ave N Fargo, ND 58102” です。こちらの物件はLAND SHAREで現在販売中です。(アメリカ在住で KYC 可能、購入可能な方は是非いかがでしょうか?)
Auto-compounding の機能付きですので、複利効果を自動的に享受できる物件でもあります。
この物件は、Total Investment が $170,000 (2022/04/27の段階で2200万円弱)で販売されていますが、1年目のリターンが 16.81% とあります。不動産にしてはだいぶ高い利回りのように見えます。なぜそんな利回りが出るのか、探っていきましょう。
Zillow で物件を見てみる
まさにこの物件が Zillow というポータルサイトにも掲載されていたようですので、そちらも見てみましょう。こちらを見ると、Zestimate ではこの物件は $202,700 の価値があるとされています。Zestimate とは Zillow が提供している、物件の予想価格です (Zillow + Estimate)。この Zestimate の機能により Zillow のポータルは人気を博し、現在に至っています。
しかし、この Zestimate の評価は賛否があるところで、精度に関しては必ずしも正確とは言えないでしょう。こちらの記事で紹介されている通りZillow はこれらのAIをつかってiBuyer事業を開始した結果、精度不足も一因となって事業に失敗しています。
では、実際にこの価格が正当なものなのかを見るために販売にかかる掲載履歴を見てみましょう。以下は Zillow に買収された trulia に掲載されていた当物件の掲載履歴です。Zillowにもヒストリーは乗っていましたが、なぜかTrulia の方がより長い履歴が載っていたためこちらを掲載しました。以下を見ると、少なくとも 7/24 には 154,900ドルで掲載されていたことがわかるでしょう。
それからも買い手がつかずに販売時期が伸びていることを考えると、LAND SHARE で扱われることになるこの物件は最終的にもう少し安い価格で販売されたとみて良いでしょう。
高い利回りのトリック
つまり今回扱う物件は(おそらく) $150,000 以下で購入され、$170,000 で LAND SHARE で販売されていることになります。「あれ、13%くらい上乗せされているぞ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、この物件の価格には以下の通り、リノベーションの金額が含まれています。(以下は和訳です)
フェンス付きの裏庭、ガレージ、地下室、ハードウッドフロア、新しいサイディングなど、昔ながらの魅力を保ちつつも新しく生まれ変わった物件です。この地域で最も大きな大学の1つからわずか数ブロックのところに位置するこの3ベッドルーム2バスルームの一戸建ては、この地域に住む何千人もの学生にとって魅力的な賃貸物件となります。 ファーゴ地区では、リノベーション物件に大きな需要があります。最近のATTOMのレポートによると、平均ROIが187.5%で、全米で2番目に収益性の高い反転市場です。この利点を生かすため、投資には物件の価値を高めるためのリノベーション予算が含まれています。
しかし、この物件の利回りは本当に 16.81% なのでしょうか。実はこれにはトリックがあり、16.81% というのは Net 1 year appreciation を含んだ値になっています。これは累積キャピタルゲインがキャピタルロスの合計を上回る金額をいいます。これは ”物件の値上がり金額” を意味すると捉えて良いでしょう。つまり、1年目は $13,587.24 の収益が上がるとともに、$150,000 の”値上がり” が想定されるということです。 また、以下の注釈にも注意が必要です。利回りも値上がりも予想でしかないので、この 数字をどう捉えるかは皆さん次第ですが、注意は必要でしょう。
注)Net Appreciation は、市場予測およびリフォームリターン予測に基づき、リフォーム予算を差し引いて査定しています。見積もりは随時変更される可能性があります。
また、Apartments.com というサイトに掲載されている、近くの物件の相場は以下のようになっています。この物件は3 beds ですが、広さは 1500Sq Ft ですので 4 Beds の部屋と比較した方が良いでしょう。この表を見る限り家賃が $1,400 というのは比較的競争力のある、もしくは妥当性のある設定ではないかと思います。また、不動産投資という観点ではこの物件の提示する本当の意味での利回り(Cash On Cash Return) である 7.98% は、見せ球の 16.81% には及びませんが、比較的優秀な利回りであると言えます。
もうすでに賃貸は埋まっているようですので、もしかするとこの不動産への投資は悪いディールではないかもしれません。
その他の高い利回りの事例
また、今回の場合は LAND SHARE の高い利回りを実現するテクニックでしたが、一方で例えば RealT はまた違った種類の物件をターゲットにすることで高い利回りを実現しようとしています。
こちらの “13835 La Salle Blvd, Detroit, MI 48238” の物件は1929年に竣工で、想定の利回りが 13.65% に設定されています。リノベーションを実施して賃貸を開始することが目されています。写真を見る限り現時点ではオンボロですが、今後の内装のパース図も添付されておりますので是非ご覧ください。
出品に際しては以下のコメントがされています。
私たちは、この1929年の逸品に大きな可能性を見出し、2022年12月から13.65%という高いインカムを見込んでいます。重要なことは、この改修後の期待収益は、予想される賃料収入のみに基づいており、物件の改修や市場原理による資本増価は含まれていないことです。参入するなら今です。私たちの有能で経験豊富なチームは、6ヶ月間計画された改修工事に着手する準備ができており、その予算は42万ドルとなっています。改修工事完了後、ビルを完全に賃貸するまでに約3ヶ月かかると見込んでおり、その時の年間総家賃は149,400ドルを目標としています。
この物件は病院が近くにあり、病院の多くの従業員にとって非常に魅力的な選択肢になることが期待されています。病院の従業員はすぐに出社できるように施設の近郊に住むことが病院によって義務付けられるケースもあるため、この物件がある程度競争力のある価格で賃貸に出された場合は安定した需要が見込めるでしょう。
この物件の詳細ページには、工事費用の内訳も記載されているため興味のある方はぜひご覧ください。
アメリカでは日本ほど新築信仰がなく、築100年ほどのこの物件も「歴史がある信頼できる物件である」と評価される可能性があります。また、このような「現時点でマーケットから外れた買い手のつきにくい物件」を掘り起こして、ある種の不動産開発を行ってヴァリューアップするのはとても良い手でしょう。しかし買い手のつきにくい物件はローンの金利が高くなる傾向があります。そういった物件の購入にかかる資金調達を暗号資産でやることは理にかなっているかもしれません。
まとめ
このように、不動産トークンには高利回りを実現するためのさまざまなテクニックが利用されています。このテクニックが本当にユーザーに利益をもたらすものなのか、それともトラップなのかはユーザーが判断する必要があります。
日本においては長年デフレが続いていましたので「不動産は買ったら下がる」という常識がありますが、一方でアメリカでは緩やかなインフレが続いていましたので「不動産は買ったら上がる」常識があります。もちろんこれは物件によって条件が異なりますので一概に言うことができませんが、少なくともその傾向はあるため、不動産トークンに関しても日本の不動産とアメリカの不動産ではこの Net-Appreciation の部分は表現が異なることになるかもしれません。
この点に関しては、近年日本でも不動産価格が局所的に上昇している背景もありますので、日本でもトークン購買者に対して Net-Appreciation を含んだ利回りを提示することができるかもしれませんが、いずれにせよ、この利回りを保証することはできませんので購買者に対する注意喚起が必要になるでしょう。安易に高い利回りを示した場合、「実際のものより著しく有利であると一般消費者に誤認されるものである」として景品表示法違反で行政処分を受ける可能性があります。
また、この物件のためにロックされたトークンが DeFi に接続されて改めて投資される可能性もあります。その場合、その利回りも含んだ値を提示するなど、不動産トークンの利回り向上にはさまざまな可能性があります。不動産トークンの誠実な運用には、本当に提示する利回りが達成できるかを吟味し情報開示する必要があるでしょう。