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不動産価格を仮想通貨の世界で安定させるには?

不動産価格を仮想通貨の世界で安定させるには?

Fumiya
Fumiya
Advanced - 上級2022年1月12日 00時00分

昨今、ブロックチェーン技術の応用先として不動産に注目が集まっています。

ブロックチェーン技術により、今まで流動性が低く手続きが煩雑だった不動産の取引が進化することはとても良いことでしょう。しかし、流動性が高く価格が不安定な仮想通貨と、流動性が低く価格が安定的な不動産を対にすることは簡単ではありません。流動性の高さを実現するために価格の安定性を犠牲にした場合、せっかく不動産という安定した資産を裏付けにした意味がなくなってしまいます。一方で安定性を優先することは、流動性を低くすることにもつながる可能性があります。

この記事ではいくつかのケースをみながら、不動産ブロックチェーンのプロジェクトがその問題をどのように解決しようとしているのか見ていきたいと思います。

Opensea で NFT を作ったら終了? 実はちょっと難しい不動産のトークン化

「不動産をパブリックチェーンでトークン化する」これは単純に思えて実は少しテクニックが必要なことです。おそらく多くの方が思いつく簡単な方法は、不動産を NFT として OpenSea などのプラットフォームに掲載することでしょう。現に OpenSea ではいくつかの不動産の出品を見ることができます。しかしそれだけでは単なる不動産のトークン化に成功したと言えても、不動産取引のエコシステムを作ることができたとは言い難く、法的な観点、経済的な観点、流動性の観点の問題を孕むことになります。

以下、それぞれの項目について見てみましょう。

法的観点:所有権や権利の移転に関する問題

  • 不動産の所有権を与えるためには法的な手続きが必要であり、トークンの所有権移転だけでは真の所有者とは認められない。取引の完成には追加のプロセスが必要になる他、それを省くには SPC の登記などの枠組みを練り上げる必要がある
  • トークン化された不動産を所有するには身分証明が必要になり、取引できる国が限定されるケースがほとんど。ホワイトリストに載っているアドレスからしか買えないため、全世界に開かれている OpenSea などのマーケットプレイスは不向き
  • 経済的観点:通貨および不動産価値の安定性

  • イーサリアムなどの通貨はボラティリティが高く、安定した不動産を買う資産として不適
  • トークンの移行だけでは税的な優遇措置を受けられないので、結局 FIAT に戻して買うことになる
  • 数千万円の暗号資産を持っている人は限定的、またそのようなプラットフォームでわざわざ FIAT を暗号資産に換えて買うメリットが小さい
  • FIAT に戻した際には利益が確定したことになり、しっかりと税金をとられる。そのため税の逃げ道にならない
  • 流動性の観点:いつでも取り引きが可能か

  • 仮想通貨の世界では年利数百パーセントの資産が溢れている一方で、不動産はせいぜい 10%程度の利回りであるため、短期投資・投機の対象としては選ばれにくい。そのため仮想通貨に比べると依然として流動性は低い
  • 長期的な投資対象としても "不動産の安定性" が枷となり、大幅な資産増加は望めない
  • 不動産のNFT化 という概念自体が新しく、パブリックチェーン上のプロジェクトの歴が浅いため、長期投資対象としてもリスクを孕む懸念がある
  • F-NFT 化したとすると一般的には ERC-20 のトークンを上限を決めて発行することになる。そのため、OpenSea などの ERC-721 ベースのプラットフォームに載せられず、Uniswap など DEX での取引になるうえ、発行上限数も少ないため、高い流動性は確保できない
  • Particle のように、不動産トークンを ERC-20 にせず、全て ERC-721 として細かく (例えば100個に分割して) 販売した場合、技術的に OpenSea などのプラットフォームには掲載できる。ただし、上記の流動性の問題は依然として起こる
  • 上記の例だけでも、不動産を ERC-721 トークン化したところで OpenSea などのプラットフォームで取引するメリットは少なく、課題が多いことがわかるでしょう。では、不動産のトークン化はどのように行われているのでしょうか。

    次の章から、流動性と価格の安定という2つのポイントに絞って、上記の問題を解決する手段にどのような方法があるのか見ていこうと思います。

    トークンの活用とスマートコントラクトによる価格の安定

    ここから、CitaDAO のアイデアを例にどのようにトークンが払い出され、そして価格の安定に寄与しているのかを見ていきます。CitaDAO で登場するトークンは 4種類あります。

  • $CitaDAO:プラットフォームのガバナンストークン
  • 不動産を表すNFT:現実の世界の不動産を表すERC-721トークン、ホワイトペーパーには "NFT" とだけ記載
  • $RET:Real Estate Token の略。上記 NFT を分割した ERC-20 の F-NFTで、物件それぞれに別個の $RET が発行される
  • $USDC:言わずと知れた USD のステーブルコイン。不動産をブロックチェーンの世界に上場する際にステークするために使うほか、報酬も $USDC で支払われる
  • 上記の使い分けを知るために、CitaDAO のライフサイクルを見てみましょう。

    CitaDAO のライフサイクル

  • 物件のオーナーが物件を掲載依頼する
  • 物件を欲しいユーザーが $USDC をステークし、ステークされた $USDC が目標額に達したら IRO (=Introducing Real Estate On-Chain、プラットフォーム上への上場) の実施に移る
  • IRO では経済的・法的利益を表すNFTが鋳造 (Mint) され、ERC-721 の NFTトークンが生成される。該当 NFTトークンはスマートコントラクト内に保持される
  • 該当 NFT は CitaDAO のウォレットに F-NFT の $RET として送られ、その後 AMM で利用可能になる。$USDC をロックしたユーザーは報酬と、各物件に対応しているユニークな ERC-20 トークンである $RET を受け取ることができる。
  • 万が一誰かが不動産を上場廃止にしたい場合、バイアウトプロトコルにより $RET の所有者が他の F-NFT 所有者の持分をすべて買い取ることが可能
  • NFT 所有者は、不動産を償還し、所有権を自分の名義に変更することができる
  • この段階でいくつか疑問が湧いてきました。

    ① $RET はERC-20 のF-NFT であるが、新しい物件ごとに違う$RET が作られるのか② $RET はステーブルコインか③ バイアウトプロトコルって?④ バイアウトプロトコルによる買い集めに反対したい場合は?⑤ プラットフォームのガバナンストークンである CitaDAOトークンの使い道は?

    一つ一つ、紐解いていきましょう。

    各種疑問点と、トークンの役割詳細

    ① $RET は ERC-20 のF-NFT であるが、新しい物件ごとに違う$RET が作られるのか

    これは Yes です。下記のような記載があります。

    Real Estate Tokens (RETs) represent factorial ownership of a property on-chain. Upon a successful IRO, an NFT (ERC721) will be minted and held in deposited into a smart contract. The smart contract will distribute the RET (ERC20) which can be traded normally on AMMs like Uniswap and can be used for yield farming.$RET は、オンチェーンでの不動産所有権を表します。IRO が成功すると、NFT(ERC-721)が鋳造され、スマートコントラクトに預けられて保持されます。スマートコントラクトは、Uniswap などの AMM で普通に取引できる $RET(ERC-20)を配布し、イールドファーミングに利用することができます。

    ② $RET はステーブルコインか

    ステーブルコインと同様に、$RET は対応する不動産に裏付けされています。従来の不動産と同様にインフレに対するヘッジを実現できます。また、彼らは不動産に裏付けされたトークンがステーブルコインよりも安全であるという主張をしています。

    かつて、USDT を運営するテザーがコマーシャルペーパーなど、比較的リスクの高い短期社債を準備資産の一部としている旨が明らかになりました。不安定な裏付け資産よりも、不動産の方が安定しているという主張は妥当に聞こえます。また、政府機関によって簡単に凍結される可能性のある銀行口座に保管された不換紙幣による裏付けよりも、SPC などの保有実態があり、物理的にも分散している $RET の方が安定しているという主張も理にかなっているでしょう。また不動産は通常、銀行口座に保管されている通貨よりも高い賃貸利回りを生み出し、時間の経過とともにその価値を高めることもその主張をサポートしています。

    ③ バイアウトプロトコルって?

    これは、ホワイトペーパーでも後半に出てくる内容ですので、見落とされがちですが、CitaDAO が DAO である所以であり、CitaDAO が RealT などと決定的に異なるポイントです。

    彼らのバイアウトプロトコルは、ドラッグアロングショットガンとして知られる伝統的なガバナンスの原則を借用したものになっています。これは一部の $RET 保有者が、他の $RET をすべて買い取り、$RET全体を取得することで、原資産の権利証書を償還するために使われます。バイアウトプロトコルが利用されると、プロトコル期間終了時に、バイアウト開始者、もしくは 他の F-NFT 保有者に有利なバイアウト価格で取引が行われます。 (後述しますが、バイアウトを開始したら必ず買い取れるわけではなく、自分の $RET が他者に買われてしまう可能性があることがポイントです。)

    これらの仕組みは F-NFT 保有者の所有権の正当性を保証するだけでなく、万が一不動産のオンチェーン価値がオフチェーンの価格より低くなってしまった場合、不動産を上場廃止し、オフチェーンにもどすために役立ちます。現実の不動産の金額に換えられることがインセンティブとなるので、オンチェーン上の価格を安定させることができます。

    バイアウトプロトコルは $RET ホルダーが買取価格を提示し、その分のステーブルコイン $USDC をスマートコントラクトにロックすることから始まります。その後に他の F-NFT 保有者にバイアウトのオファーが通知され、その販売価格で保有する $RET をバイアウトする機会が与えられます。

    では、あまりにも安値で買取のオファーが来てしまったらどうでしょう? CitaDAO ではそれを抑制するための手段が存在します。

    プロトコルが開始された後、他の$RET保有者はカウンタークレームをすることができます。買取を阻止するためには、他の $RET保有者はステーブルコインを共通のカウンタークレイムプールにロックすることによって買取希望者に対抗します。販売価格の設定値よりも高い金額がカウンタークレームプールに投入された場合、バイアウトは失敗します。その結果、カウンタークレームプールに $USDC をロックしたコミュニティメンバーは、バイアウトプロトコル開始者の $RETを設定価格で購入することができます。

    この仕組みは低額のオファーを抑制し、フロアプライスを設定することに寄与します。例えば、バイアウト・オファーが $RET を50ドルで買おうとしても、妥当な $RETの価値が100ドルである場合、他の F-NFT 所有者はカウンタークレームを使用してRETを割引価格で購入することができます。

    ④ プラットフォームのガバナンストークンである CitaDAOトークンの使い道は?

    もしあなたが投資家である場合、このことは非常に気になる部分でしょう。重要な点として、まだトークンは Mint されてません。そのため2022年1月の段階では買うことができません。このガバナンストークンは、プラットフォームへの貢献に対してコミュニティに配布される予定です。これによりトークン所有者はプラットフォームを統治することができるようになります。

    CitaDAOのトークンは下記の複数の目的で使用されます。

    ガバナンス:$CitaDAOトークンをステークして、プラットフォームの新機能、収益分配、プロジェクトのリーダーシップなどの重要な決定について投票することができます。

    不動産所有権:CitaDAOプラットフォームに掲載されている全不動産の 2% がDAO自身によって所有され、所有権は $CitaDAOトークンの保有者に比例して分散されます。CitaDAOトークンを所有することは、Citadaoプラットフォーム全体の不動産に広く分散してアクセスするシンプルな方法です。

    収益:この2%の不動産所有権によって発生する収益は、$CitaDAOトークンの買い戻しに充てられます。

    手数料:$CitaDAO プラットフォームは、取引、上場、ステーキング、新しい不動産の引き受けなどの活動に対して、少額の手数料(1%)を課します。

    優先的なアクセス:Citadaoプラットフォームの成長に伴い、CitaDAOトークン保有者は新しい不動産IROに優先的にアクセスすることができます。

    不動産価格の安定と仮想通貨

    この記事では DAO として活動する不動産の REIT / DeFi プロジェクトの事例を見てきましたが、流動性を担保しながら不動産価格を安定させる方法には多くのチャレンジがあることがこの記事で示せたのではないかと思います。

    ただし、今回扱った不動産ブロックチェーンプロジェクトの CitaDAO が本当に高い流動性を確保しているかには疑問が残ります。まだ不動産の取引が始まって間もないので、今後動向を追っていこうと思います。他方、CitaDAO の事例を見ると彼らが必ずしも高い流動性によってユーザーを惹きつけようとしているわけではないことも見てとれます。DeFi コンポーザビリティを活用して、CitaDAO のリソースを他の DeFi プロジェクトの裏付けに使ってもらったり、ステーブルコインの代替となりうる安定した資産の創造などもアイデアの一部である他、1% の手数料をとることを明示していることからも、彼らが仲介ビジネスをやろうとしていることも伺えます。

    ここまでオープンに情報が開示され、アイデアがまとまっている不動産ブロックチェーンのプロジェクトは多くありません。DAO で運営することのメリットや組織の透明性は投資家にとっても非常に好意的に受け取られるポイントでしょう。

    残る課題は仕組みの複雑性や直感的でないプロセスになると思います。これらは投資する際の高いハードルとなるでしょう。今後 CitaDAO がどのように投資家向けにプロセスを単純化するか、もしくは "単純化したように見せるか" も重要な点でしょう。

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