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参加者の成熟度が問題? 米 Propellr が不動産のトークン化に失敗した理由

参加者の成熟度が問題? 米 Propellr が不動産のトークン化に失敗した理由

Fumiya
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Entry - 初級2022年4月21日 00時00分

Propellr はデジタル資産の創造・管理・サービスを行うプラットフォーム企業です。2019年初頭に彼らの活動は盛り上がりを見せたものの、それ以降はめっきり静かになってしまっています。何が起きたのかをこの記事では取り扱いたいと思います。

2019年はどんな年だったかというと、不動産のトークン化の熱が最も加熱していた時期です。不動産のマーケット規模は大きい一方で、大きな額が動くことやIT化の促進がなかなか進まないことも相まり、流動性が非常に低いマーケットになっています。当時は「ブロックチェーンの社会適用」があらゆる業界で話題になっており、不動産業界でもブロックチェーンへの期待が高まっていました。

当時ブロックチェーンに関わっていた方々はご存知かもしれませんが、2019年においてはブロックチェーンへの理解があまり深まっておりませんでした(そして今でも)。当時はブロックチェーンを銀の弾丸だと信じてやまないビジネスサイドがお話を進める一方で、実際は RDB でも良いところに名ばかりのブロックチェーン(分散台帳技術)が使われる、という構図が散見されました。

筆者も当時ブロックチェーン関連プロジェクトの技術支援に参加したことが何回もありましたが、本質的にブロックチェーンを使う必要がなかったため、進まなくなってしまったプロジェクトもいくつか存在しました。

2019年以降は、大企業の興味は同時期に盛り上がっていたバズワードであるDXおよびAIに集約されていくことになってきました。Propellr のお話はそんな時期のお話になります。

Propellr の挑戦

上述した通り、ブロックチェーンによって発行されるトークンと不動産を組み合わせるというアイデアは、2019 年初頭にピークに達しており、リゾートやマンションなどさまざまな分野でモーゲージ市場の再定義が起ころうとしていました。

Propellr も例外ではなく、資金調達と融資の過程をスマートコントラクトで自動化し、ブローカーを排除することで市場を民主化し、不動産の伝統的な流通システムに高い流動性を導入しようとしていました。

Propellr の中でも大きい期待とともに立ち上がったプロジェクトが Fluidity との合弁事業です。

Fluidity はブロックチェーンのテクノロジーベンダーで Consensys と Galaxy Digitatl が出資していましたが、Consensys に後ほど買収されることになります。有名不動産ブローカーである Ryan Serhant がトークン化されたアセットについて語り、この合弁会社は注目を次の時代の不動産流通だとして注目を浴びます。

これは最近どこかでみた光景の様に見えます。そうです、この構図は Crypto & Real Estate Summit で米国不動産のYouTuberであるTom Ferry氏が語った事に似ていますよね。このサミットはこちらの記事で に扱いましたのでぜひご覧ください。

近年の NFT の流行により、NFT に不動産を紐づける話題がありますが、この流れは何も新しいものではありません。Propwave では記事の中にベンチマークとして Propy や RealT、Landshare を挙げて話題に出すことが多いのですが、これには上記の理由があります。これらのプレイヤーはこの2019年初頭の不動産ブロックチェーンの第一次ブームの収束を生き残った数少ないプレイヤーだからです。

取引は不動産トークン化は3年を跨いでまた今 NFT とともに盛り上がりを見せています。

ここで Propellr の話題に戻しますが、3000万ドル相当のマンハッタンの高級マンションのトークン化が計画されいた2018年のFluidityとPropellrの合弁事業は、2019 年の初頭にひっそりと棚上げされています。両社は各々の開発に集中する事になり今に至ります。両者とも中止の詳細については言及しませんでしたが、トークンの市場は不動産という新しい事例を受け入れるには時期尚早だったという事に関しては同意しています。Fluidityの共同創業者であるSam Tabar氏はCoinDeskに、「当時は市場が若すぎただけだ」と語っています。

市場成熟と流動性 - 機関投資家の不在

では、市場が若すぎたとは何を指すのでしょうか。これは参画者が少なかった事をさした表現ですが、もう少しピンポイントに言及すると不動産トークン取引にかかる十分な流動性の確保でしょう。

そういう意味で、不動産トークンエコノミーには機関投資家が欠けていると言えます。金融機関はバックオフィス全体を再構築する前に、流動性を確認したいはずですが、一方でトークン発行者はトークンを市場に出すことその流動性を証明する必要があり、鶏と卵のような問題が発生します。

PropellrのCEOであるTodd Lippiatt 氏は「トークン化された不動産は、人々が実際に言葉を混ぜ合わせるところから始まった。私の個人的な見解では、彼らが流動性として主張していたものは、実際には市場アクセスだった」と述べています。

また Lippiatt 氏は市場アクセスの他にも、取引の質に関しても言及しています。

彼は、テクノロジーのハイプが原因で市場に惹きつけられた人の質が悪く、取引の質も悪かったことがマーケットの失敗になってしまったと主張しています。

一時は30億ドル相当のトークン化マーケットへの関心があったものの、すべてをふるいにかけ始めると、本当に悪い取引のために資金を調達しようとする人たちがたくさんいたことが観測できた

つまり筆者の解釈を加えてまとめると、結局のところ不動産トークン化マーケットは数千億と言われて投資家や起業家を惹きつけたが、その数千億円のうちに本当に価値がある物件は多くなく、蓋を開けたら収益性の観点では質の悪い物件ばかりであったということでしょう。そのためトークン化して市場へのアクセス性は良くなったものの、投資マネーが入る状態には至らず机上の空論になってしまっているようです。

もっとも、Propellr は機関投資家にもトークンを買ってもらえる様なトークンづくりをすべくチャレンジをしていました。Todd Lippiatt はこちらの論文で直接論じているように、トークン債務クラスと株式クラスの 2種類のトークンを流通させるべきだと主張しています。こちらの論文は2018年の9月に書かれたものですが、この実装が試されるまえにプロジェクトが頓挫してしまったのは残念です。ただ、この文章は今でも学びが多い文章ですのでぜひご覧ください。

他方、金融商品として規制されているSTOは、不動産のような現実世界の資産のトークン化に少なくとも書類上は適していると言えるでしょう。米国の場合、STOはレギュレーションDと呼ばれる米国証券法の免除を利用して運用されることが多いです。こちらを適用すると中小企業は困難な登録プロセスを経ずに、選ばれた投資家に株式や債券を販売することで資金調達を行うことができるようになります。

まとめ

トークン化のメリットは、多くの人が知っている通りです。トークン化は、小さなパイを求める個人投資家の参入障壁を低くします。おそらく最も大きなメリットは、世界最大の資産クラスの1つに流動性が生まれることです。しかしトークン化が本当の革命を起こすのにはまだブロッカー要素があります。

トークン化市場はクラウドファンディングと大差ないと考える人もいますが、いずれにせよ双方の市場に大規模な機関投資家が参入しない限り、大規模な導入は遠いかもしれませえん。トークン化で不動産取引の摩擦をなくせば、たちまち機関投資家の資金と流動性が集まると期待されましたが、事態はゆっくりと動いています。

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