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「空き家」を活用!LIFULL の不動産ブロックチェーン事例を解説

「空き家」を活用!LIFULL の不動産ブロックチェーン事例を解説

George
George
Entry - 初級2022年1月29日 00時00分

日本最大級の不動産情報ポータルサイトを運営している LIFULL のグループ会社に、LIFULL Investment があります。この企業はブロックチェーンの黎明期より、技術の R&D を含めた実証実験を積極的に行っています。この記事ではその中でも面白いものを二つ紹介します。

Propwave では今まで不動産トークン化の事例を多く扱ってきました。ほとんどの事例では物件そのものをトークン化して取引上の便益を向上させたり、分割された物件の受益権を表すF-NFTトークンを作ることに活路を見出していましたが、これらの LIFULL の事例は少しアプローチが違った面白いものとなっています。

空き家・所有者不明不動産問題を解決する実証実験

まずは、LIFULL が2019年に実証実験として開始した空き家・所有者不明不動産問題へのブロックチェーン適用です。

今回トークン化の対象となった物件は、不動産価値がゼロである「空き家」です。このような物件は不動産権利の譲渡に伴う登記の価格が不動産価格を上回ってしまうことがあり、空き家の利活用という観点では多くの問題を抱えることになります。

不動産の取引においてブロックチェーンを用いるメリットは改竄耐性二重譲渡防止透明性など様々なものがありますが、この事例ではブロックチェーン分散台帳技術による公証性の担保という点が生かされています。つまりブロックチェーン技術を使うことにより、登記をすることなく、持ち主の証明をできるようになるということが実現されています。

しかし、お気づきの皆さんもいるように、本来であれば不動産の所有を証明するには登記をする必要があります。ブロックチェーンを登記にかえることができるかどうかの議論はさまざまな場所で行われてきましたが、現実的にまだ中央集権の登記システムをリプレイスするには至っていません。

ブロックチェーンを登記の代わりに使うためには第三者対抗要件の課題があります。不動産物権変動の対抗要件 (=権利の移動を主張できる要件) については民法において以下のように定められています。

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

登記をしていなかったら不動産の権利を奪われる可能性がありますし、不動産の所有権を争う場合には登記の順番が重要になります。

この事例の面白いところは、LIFULL が「空き家」に不動産 STO の対象を絞ることにより、「登記する必要がある」という条件を取り払うことに成功したことです。一般の不動産に対して、空き家の場合は下記二つの条件が当てはまります。

  • 不動産価値がないものを欲しがる人はないはず
  • あえて登記しないという選択肢も取ることができる
  • つまり「不動産価値がゼロの土地はあえて登記をしなくても、当事者間での不動産譲渡契約があれば良いので、その契約をブロックチェーンで表した。」ということになります。これにより契約に伴うコストの削減を狙うことができます。

    この契約に伴うコストですが、これは既存の事業者が得ていた利益を圧縮させるものではないことにも留意する必要があります。ブロックチェーンで削減したコストは登記に関する書類準備にかかる人件費や、申請時の手数料などが多く含まれます。つまり、あくまでもお金の無駄が省かれているだけではなく、全体のプロセスもカプセル化されて最適化されていることになります。

    不動産ブロックチェーンの分野では証券化の一面がフォーカスされがちですが、このように文脈を絞ることによってブロックチェーンの利点を取り出す方法にも目を向ける必要があると思います。

    葉山の古民家宿づくりファンド

    続いて、後半では国内初の STOスキームによるファンドを活用した空き家プロジェクトである「葉山の古民家宿づくりファンド」について解説します。前半も後半も「空き家」がテーマではありますが、アプローチや手法、ブロックチェーンに求める領域は異なります。

    エンジョイワークス社は不動産のクラウドファンディング事業を展開する企業です。この事例においては発行体として、地域に眠る空き家を古民家宿にリフォームし、地域の新たな資産に変えていくというコンセプトの下、STO を実施して 1530万円の調達に成功しています。

    SDGs の文脈でも空き家の再活用は大きなテーマです。またこの空き家の活用方法は地域のコミュニティに対しても、非常にポジティブな効果があります。この第一号の古民家である平野邸は宿泊施設として使われるようになりました。

    また、これはよくある寄附型クラウドファンディングではなく、STO の特性を持った投資型クラウドファンディングになります。今回出資した投資家には1年を有効期限とした利用割引券もしくは無料券が付与され、宿泊施設を体験できる機会が与えられます。また、想定利回り年2%以上が期待される受益権も得ることができます。

    今回のケースはファンドの出資持分を譲渡することは可能ですが、二次流通のリスティングプラットフォームとして公の Web インタフェースが用意されているわけではないため、譲渡の方法に関しては限定的です。また、譲渡方法や二次流通市場へのアクセスは出資者に限定されて報告されていうるようなので、外から見えづらい部分があるため本記事で言及することはありません。しかし2年3ヶ月という比較的短い運用期間で2%程度の利回りが出ることを考えると、そもそも譲渡するニーズがない可能性も高いと考えられます。

    2021年後半から 2022年にかけて NFT が流行になり、不動産トークンも NFT という文脈で語られることが多くなってきました。しかし、こういった期間が限られた商品の性質、短期的な利益を狙う投機目的の NFT は別物として考えるべきでしょう。

    また、該当ホームページ上には以下の解説もあるように、これは出資持分を表したものですので、 有価証券ではないことには留意が必要です。

    なお、※当該STは、不動産特定共同事業法第2条4項に定める不動産特定共同事業(いわゆる1号事業)に基づく出資持分を表象したものであり、⾦融商品取引業等に関する内閣府令第1条4項17号に規定される電⼦記録移転有価証券表⽰権利等に該当するものではありません。

    さらに詳しい情報は以下をご参照ください。

    まとめ

    海外の不動産ブロックチェーンの世界では、比較的既存の不動産流通プロセスをカプセル化する動きが盛んです。その場合、不動産流通における金銭的な利益面だけがフォーカスされているケースが多いのも実情で、仮想通貨世界のお金をどのように不動産領域に流通させるかに焦点が集まっている事例もよく見ます。

    他方、このように日本で「空き家」を利用したブロックチェーンのプロジェクトが試されているのは非常に興味深いことだと思います。ブロックチェーンの世界のにおける「不動産」はまだニッチな領域ですが、その中でもさらに特定の「空き家」のような領域に区切ることによって活路を見出して有意義な効果を模索することはとても面白いですし、今後の多様なブロックチェーンの活用にもつながると感じます。

    また、後半の事例では 2% の利回りを実現する不動産プロジェクトを紹介しました。この利回りは不動産商品としてはそこまで高くはありません。しかし、割引券や無料券などの「使えるトークン」としての役割を持たせたり、ストーリーをのせることによって総合的な価値を高めて既存の投資商品と戦っていくスタイルは今後も増えるのではないかと思います。

    ブロックチェーンの特性を活かした不動産コンソーシアムである ADRE (Aggregate Data Ledger for Real Estate) に関する記事で LIFULL のブロックチェーンに関するキーマンである松坂氏が以下のように述べています。

    これはよくある誤解なのですが、組織がコンソーシアムなだけであって、そこで使われるブロックチェーンはパブリック型のものであるべきだと考えています。

    今後、こういった 不動産のSTを誰でも実現できるプラットフォームはどのように構築されるのでしょうか。期待が集まります。

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