不動産STO - SLICE の挑戦と大失敗
かつて SLICE という不動産ブロックチェーンSTOプロジェクトがありました。このプロジェクトは失敗に終わってしまったのですが、それはなぜでしょう。このプロジェクトは不動産STOにおける先行事例として界隈では有名なプロジェクトです。
実は日本のデベロッパーである大和ハウスも一部絡んでおり、非常に期待されたプロジェクトでもありました。この記事では SLICE がどんなプラットフォームだったのか、なぜ失敗したのかについて考察していきたいと思います。
SLICE とは
SLICE は、世界の投資家のための国境を越えた商業用不動産(CRE)投資プラットフォームです。このプラットフォームは従来の不動産エクイティ投資にかつてない流動性を提供する一方、富裕層(HNWI)にとって魅力的なポートフォリオの分散化ツールを構築し、提供することを目標にしていました。この組み合わせにより、SLICE はプライベート市場でのリターンとパブリック市場での流動性を提供するハイブリッドなプラットフォームになるはずでした。この SLICE の投資にはいくつかのオプションがあり、不動産からの安定した四半期ごとの配当が提供されるものや、高利回りで配当頻度の低い付加価値プロジェクトなどが選択できました。このコインのもう一つの魅力は、通常は機関投資家だけが知っているタイプのリターンにアクセスできることでした。当時、カリフォルニア州、ニューヨーク州、それぞれ数件の物件が掲載されていました。
当時の情報はこちらに掲載があります。$79,000,000 の投資を見込んでおり、小口化された商品は $10,000 から買えるそうていになっていました。
Manhattan One
SLICE が扱った物件でもとてもアイコニックだったのが HAP INVESTMENTSおよび大和ハウスもパートナーシップを組んだ マンハッタンのチェルシー にて建設中の21階建て高級中高層ビルプロジェクトでした。87戸の分譲マンション、119戸の賃貸マンション、そして路面店舗で構成されており、有名な DXA Studio が設計して2019の完成でした。
大和ハウスはこのプロジェクトに HAP INVESTMENTS とのジョイントベンチャーという形のパートナーシップで参画しています。Manhattan One は一般的なリテール投資家におりてくる種類の投資ではなく、機関投資家グレードの投資案件とされていたため、非常に話題になりました。
また、ライトペーパーやリリースの報告に該当する資料↓はまだこちらに残されておりますので是非ご覧ください。
失敗の理由
この SLICE ですが、これはアメリカにおける初めての不動産トークン化プロジェクトのうちの一つでした。もちろん、2022年時点の NFT ではなく STO という文脈だったのでスタイルは現在とは異なります。失敗した理由は多くありましたが、挙げると以下でしょう。
当時のことを知るためのリソースは公式の Medium や Originate Report誌のバックナンバーをご覧ください。
総括とその後
このプロジェクトは意欲的であった一方で、市場の成熟度が高くなかったため、市場に対して失敗の理由もあまり把握されることなく終了しています。そのため短絡的に「SCAMである」と決めつけているユーザーも見受けられました。
批判が多かったためか、このプロジェクトも創業メンバーからもなかったことにされています。創業者 CEO の Ari Shpanya 氏の LinkedIn には SLICE の名前すら表記もありません。彼は今 loanbase という別のサービスに注力をしています。
また、Crypto で分割されなかった Manhattan One のビルは 2021年12月の段階でビルの 49% の持分を大和ハウスに売り渡しているとのことです。合計は5億600万ドルになり、HAP INVESTMENTS としては最終的に成功した投資になりました。今回の調査では、どの程度の割合の持分が SLICE によってトークナイズされるのかの情報に辿り着かなかったため、トークナイズ予定だった $79,000,000 と比較してどの程度物件が値上がりしたのかはわかりませんが、こちらの記事や市況を見る限り、この取引は非常に大きな利益をもたらしていると考えられます。
皮肉なことに暗号資産のリテール投資家は、このような成功した不動産取引の機会を逃してしまいました。しかし、後から見ても当時の SLICE に出資することはリスクの高いことであったことに間違いありません。現在は不動産ブロックチェーンの分野も多少の盛り上がりを見せておりますが依然として市場は成熟していません。今後もっと安心して投資できる環境が望まれます。Propwave もその一助になれば幸いです。