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ブロックチェーンでの不動産登記は難しい? 米Propy の不動産流通における挑戦と課題

ブロックチェーンでの不動産登記は難しい? 米Propy の不動産流通における挑戦と課題

George
George
Entry - 初級2022年1月6日 00時00分

Propy とは

Propy Inc. はシリコンバレーで 2016年に創業した企業で、Propy というブロックチェーンを使った高効率で流動性の高い不動産取引を実現するプラットフォームを提供しています。Propy は不動産取引のあり方を根本から変えるチャレンジをしており、世界で初めて不動産を NFT 化した存在でもあります。

不動産取引には、国や地域ごとに異なる文化や慣習があります。購入プロセスや関係者の数や種類も異なりますので、国際的な不動産取引を実現するのはとてもハードルが高くなっています。例えば日本において不動産業界の IT 化は、"PropTech" の名の下に様々な分野で進んできましたが、一方でいまだに FAX を使う文化が根強く残っています。程度の差こそあれど、アメリカでも同様に不動産取引には様々な非効率なプロセスが存在します。

この記事ではブロックチェーンを使った不動産流通プラットフォームを提供する Propy のホワイトペーパーから Propy のビジネスを読み解いていこうと思います。

Propy は野望を諦めた? 刷新されたホワイトペーパー

Propy のホワイトペーパーは 2017年に公開されており、2021 年の段階で バージョン 2.0 にアップデートされています。Propy のホワイトペーパーの副題は 2017年と2021年では大きく変わっているのをご存知でしょうか。

2017年ではタイトルに "Propy, Store with Decentralized Title Registry" と書いてあるように、純粋なブロックチェーン上で不動産登記を実現する意識を強く感じます。しかし 2021 年では "Real estate NFTs, Defi, & Crypto Title Insurance Fund" というように、流行の NFT や DeFi、そしてタイトル保険といった言葉が表紙に取り入れられています。

「なるほど。流行りのワードを取り入れたのか」とやり過ごしてはいけません。本質的にはこの「タイトル保険」という部分が一番変わった部分です。

このタイトル保険は日本では馴染みのないものですが、アメリカにおける物件の所有権に対する保険のことで、アメリカにおいては比較的一般的なものとして存在します。もう少し噛み砕いて言うと「もしも所有権や抵当権等、購入者に不利となる事項が将来的に判明した場合には、その損害額を補償する」保険です。

ここでいう Title Registry(=登記)Title Insurance(=タイトル保険) では実現しようとしていることに大きな違いがあります。前者のように登記に変わる新しいプラットフォームを作るということは、既存のプレイヤーに対する挑戦であるのに対し、後者の方では既存のスキームの中でビジネスを運用することを選んだようにも捉えられます。Propy は 4 年間の間にブロックチェーンでの不動産登記という野望を諦めて現実路線に入ったということなのでしょうか。次の章以降で Propy のビジネスや、時代の変換に伴うターゲットやビジネス領域の変化を読み解いていきます。

Propy のホワイトペーパーはこちらから入手可能です

Propy のホワイトペーパーの概要

ホワイトペーパーは下記の項目で構成されています。

  • Propyで不動産を取引する3つの方法
  • 不動産資産の NFT 化について。なぜ人は自分の財産をNFTするのか?
  • NFT 所有権移転の法的枠組みと流れ
  • 物件の 20% を NFT にする
  • Propy NFT マーケットプレイスについて
  • 長期ビジョン - 米国のほとんどの不動産をNFT化する
  • NFT 化された不動産にむけた DEFI
  • NFT 化されたに不動産を借りる方法 (消費者と投資家のメリット)
  • 暗号資産での保険基金について
  • Propy の分散化と長寿命化
  • 暗号資産やブロックチェーンが革命的な概念や技術であると謳われている昨今ですが、一方でボラティリティの高さや、一部の詐欺により、2021 年の段階ではまだ一般に普及するフェイズには至っていません。

    また、実際の世界の契約や権利の移転をブロックチェーン技術で実行しようとすると、さまざまな規制や法律、税制、既存のスキームなどの高い壁があり、不動産取引もその例外ではありません。Propy はどのようにそれらの問題を解決しようとしているのでしょうか。

    Propy が実現しようとしている世界と現実

    2021 年の Propy ホワイトペーパーによると 彼らの不動産取引に対するアプローチは 「不動産の所有権のカプセル化により、信頼の必要のない頻繁な取引を可能にすること」です。このことはホワイトペーパーの冒頭で一番最初に示されており、「NFTの所有権の移転が不動産の購入の代理となる」旨を明確にホワイトペーパーに記載しています。また Propy は「不動産の取引 NFTスマートコントラクトが法的書類の修正を行うことを認可する法的枠組みを提供し、NFTの作成と出品を管理する利用契約書の法的枠組みを提供することが目的とも記載しています。

    他方、Propy の 2017 年のホワイトペーパーでは、アダムスミスの国富論の内容と現代の不動産業界の対比からホワイトペーパーが始まっており、理想を語るページが冒頭から続きます。その後のソリューションとしては「斬新な統一されたプロパティストアと資産移転プラットフォームの構築により、 国際的な不動産取引が抱える問題を解決すること」と提示しており、「Propyのレジストリは、不動産の移転が記録されている公式の土地登記記録を反映する」とも述べています。

    ちなみに 2017 年のホワイトペーパーでは Propy のミッションが「不動産取引のための業界で受け入れられるデータ標準を開発すること」 という挑戦的なものでしたが、2021年においては「不動産取引のプロセスを自動化すること」となっています。この 4 年間で Propy のビジネスはより現実的なものに近づいた印象を受けます。「登記して証明する」「『登記して証明した』ことを保証する」ことには本質的な違いがありますが、一方でこのことは Propy が現代においてブロックチェーンで不動産取引の課題を解決するための一つの解を見つけたとも受け取ることができます。

    不動産を取引するために必要な 3 種類のポイント

    Propy は不動産流通に関して 3 種類の取引を実現しています。

  • スマートコントラクト上での従来の取引の実現
  • 暗号通貨による支払い
  • 不動産の NFT 化
  • それぞれのポイントについて見ていきましょう。

    1. 従来の取引をスマートコントラクト上で実現する

    まず、ホワイトペーパーには「Propy や複数のリスティング・サービスに掲載され、フィアットやローンを利用した支払いを代替する」とあります。Propy はこれらの動作をスマートコントラクトの中で実現します。

    上記がホワイトペーパー上で示されている Propy における取引プロセスですが、ここで注目すべきポイントが「どの程度まで Propy の取引プロセスは公開され、広く使えるようなるか」です。オフチェーンで実行する処理が多くなればなるほど、またそれらのプロセスが隠蔽されればされるほど、ブロックチェーンの世界で該当プラットフォームを使うメリットは少なくなってくるかもしれません。

    Propy に関しては、2021年の段階では、契約時の手続きで必要な KYC (本人確認手続き)、交換、エクスクロー (中立的な第三者としての、取引時における仲介) は Propy Inc.が行っており、完全に分散化されておらず、その他の手段も提供されていません。また不動産固有の流通プロセスに関しても同様です。Propy では取り扱いのある不動産に関して「Propy やその他のリスティングサービス (不動産検索サービス) への掲載をする」という旨の表示がありますが、このプロセスも Propy が自動化することになっています。つまり、法的なオペレーションや信頼の担保に加え、外部リスティングサービスへの情報提供 (セールス) まで Propy が現状実施していることになります。

    Propy も営利を追求する企業であるので「マージンを取りたい」という意識もあるかもしれませんが、MLS などの中央集権型外部サービスへの登録などは、"信頼されている誰か" が実施しなければいけない事情もありますので、完全な分散化にはまだ遠いことが伺えます。

    さらに、このことは日本とアメリカでは業界の事情が違うことにも留意する必要があります。アメリカでは不動産情報を比較的オープンに提供している公的プラットフォームの MLS があります。一方で日本では諸々の情報がクローズドになっているケースが多く、業界の透明性が異なります。そして、それらの制約に影響されることにより SUUMO や LIFULL を代表するいわゆる「リスティングポータル」という業態ひとつとっても日本と米国ではスタイルが全く異なります。このことは今回の記事では割愛しますが、ここでは不動産のプロセスや各プレイヤーの役割は日本とアメリカでは異なり、自動化と言う面でも日本ではさらなる工夫が必要である、と理解していただければ結構です。

    2. 暗号通貨による支払い

    Propy では暗号通貨でも家が買えるようになっています。裏を返すと従来型のフィアット (いわゆる円やドルなど、中央銀行が発行した通貨) での支払による家の購入も可能になっています。「暗号通貨で不動産を買う」という概念は日本でも少しずつ台頭してきつつあります。まだ広く成功事例として受け入れられている事例は多くありませんが、日本でも暗号通貨での不動産購入を受け付ける挑戦的なサービスがちらほらと出てきました。例えば、ie-reach Crypto PropertyHEYAZINE COIN (サービスは終了)、実店舗を持つ麻布十番の Bit Real Estate などがその例です。厳しい日本の税制や概念の難しさなど、普及に関してはビジネスとして成功させるのにはハードルが高いことがうかがえます。

    3. 不動産の NFT 化

    2 で述べた通り、現在 Propy の扱う物件はフィアットと暗号資産のどちらかを選んで買うことができます。これはつまり、MLS を経由した従来型取引も可能であり、市場は NFT マーケット以外にも開かれていることを指しています。ここで3つ目のポイントである不動産の NFT 化について Propy がどのようなアプローチをしているのか見ていきましょう。Propy のページを見ると、不動産を買う方法は下記の4つになっています。(ちなみに、全ての方法で固定資産税は発生します。)

  • 従来型の方法 (wire transfer)
  • 暗号通貨
  • NFT として
  • 不動産の部分所有
  • "従来型の方法" で購入した場合、それ以降該当不動産はブロックチェーンに乗らないことになるため、Propy は NFT を Burn する処理を実施します。これは、実在するアセットをデジタル化して流通させる際に注意すべきポイントです。

    SANDBOX で扱われる土地やアイテムのようなデジタルネイティブなアセットの場合は、デジタルにあるアセットが唯一無二の存在で、Burn したらそのものが消失します。またアセットの現実化もできずにデジタルにおける所有権はブロックチェーンのみが担保します。一方で家のようなリアルアセットの場合、デジタルにあるものは Burn しても、物理的なアセットは残ります。また法的には登記情報がいつでも正しいとされるため、ブロックチェーンが必ずしも所有権を担保しない状況が生まれ得ます。Propy はこの問題を解決するためにあくまでも家自体をトークン化するのではなく『タイトル保険』をトークン化する手段を選びました。それは「実は買ったトークンの表す土地の所有者は知らない第三者だった」という最悪のケースに対して金銭としての保証と、購入者に対する安心感を提供するためです。

    上記から分かることは Propy の本質は「不動産タイトル保険流通ブロックチェーンサービス」であるということです。この「不動産のカプセル化」こそ、 Propy が見つけ出したブロックチェーンを用いて不動産を流通させる解になります。Propy はブロックチェーンテクノロジーを用いてタイトル保険のあり方を再定義しました。

    Propy は日本進出を本格化させる旨のリリースを 2020 年末に出しています。彼らのパートナーとなるのは一般の不動産流通業者や不動産投資業者ではなく、株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン という第三者寄託サービスの企業で、新しい不動産流通システムを米国のエスクロー制度、タイトル保険制度に求めている企業です。

    当社は不動産取引の環境変化のもと、新しい不動産流通システムを米国のエスクロー制度、タイトル保険制度に求め、不動産取引におけるコスト削減と安全な取引を同時に実現することによる、社会的価値の創出を目指しております。取引事務を一括にまとめる手法として、取引に係る事務を集約する「BPO事業」、事務の効率化および、安全性・合理性・利便性を高める「エスクローサービス事業」を構築しております。株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン

    また日本展開においては、マーキュリアインベストメントという企業から出資を受けており、この会社はライフネット生命株式会社や、ほけんの窓口グループ株式会社といった保険会社に出資をしている企業になります。

    ホワイトペーパーによると、Propy はこれから不動産の NFT化 (=ここでいうカプセル化) に力を入れていくようです。日本の場合はタイトル保険が一般的でないため、もしかすると彼らは戦略を練り直す必要があるかもしれません。仮にそうだとすると、彼らが日本市場においてどのような媒体を利用して価値の移転と所有の担保を提示するのか楽しみです。

    総論

    この記事では Propy のホワイトペーパーから、彼らがブロックチェーンでどのように業界を変えようとしているのかを見てきました。Propy はタイトル保険という媒体を見つけ、そのトレードにより不動産の流通を加速する方法を見出しました。日本で今後ブロックチェーンを活用して不動産取引を加速させるにはあと何が必要になるでしょうか。

    「不動産の所有権の移転」という概念自体は簡単なものですが、所有する実態が「定期的な利益を享受できる権利の移転」になった場合は、日本ではその権利は不動産に対するものではなくみなし有価証券(金融商品)に対するものになります。その場合、プレイヤーは宅地建物取引業者から第二種金融商品取引業者にかわる必要があり、売買時の税金のかかり方も変わってきます。また、業界への参入障壁もまた一段と高くなることが考えられます。

    今回の解説では、ブロックチェーンを活用して不動産の取引の流動化をさせる際には「その Token が何を表すのか」というポイントを見極める必要があることをお伝えできたかと思います。ブロックチェーンで不動産取引を活性化させるチャレンジは非常に面白く、それぞれの新興企業やチームが異なるアプローチで同様のテーマについて取り組んでいます。

    今後、さまざまな事例やリサーチから不動産とブロックチェーンの未来について深掘りをしていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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