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プライベートチェーン vs パブリックチェーン 不動産に適しているのはどっち?! STO について考える

プライベートチェーン vs パブリックチェーン 不動産に適しているのはどっち?! STO について考える

yuhattor
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Intermediate - 中級2021年12月24日 00時00分

STO とは

STO は Security Token Offering の略称で有価証券の性質を持つトークンにより資金を調達する方法を指します。日本においてセキュリティトークンは「電子記録移転権利・電子記録移転有価証券表示権利等」を指します。今まで資金調達が難しかったプロジェクトへの活用が見込まれています。

今まで 米Propy、米Landshare、米RealT など、Propwave ではパブリックチェーンのサービスを扱ってきましたが、これらのトークンと STO では性質が異なります。そのため不動産ブロックチェーンサービスと言っても、別物であると言うことは理解する必要があるでしょう。STO は政府機関から公式に発行と取引が認められた証券であり、既存の有価証券同様に取引が可能です。投資家保護の観点が重要視されており、セキュリティトークンの方が投資対象としての安全性は数段高くなっています。

かつて国家による認証を必要としない ICO (Initial Coin Offering) が流行していましたが、法規制が不十分であるがために詐欺プロジェクトに使われるなど、多くの問題を抱えていした。STO はそれらの問題を解決しつつ、ブロックチェーンの活用を推進するために成長してきた分野です。

不動産の STO をする動機

不動産関連の STO と、そうでない不動産ブロックチェーンの違いを理解するには「そもそも、ブロックチェーンなどの新興技術分野で何がしたいのか」というモチベーションに立ち戻る必要があります。こうした新興技術を利用するモチベーションは以下のようなものです。不動産ブロックチェーンの文脈では、創始者がどのモチベーションからプロジェクトを始めているのかによって変わります。

  • 不動産取引の流動性を高めたい (①)
  • 不動産取引は本来であれば P2P であるべきであり、不要な仲介者を排除したい (①)
  • 登記など、既存の取引をブロックチェーンで代替するなど、取引プロセスの効率化をしたい (①)
  • REIT のようなポートフォリオに対する小口投資ではなく、単一物件に対する小口投資がしたい (②)
  • 不動産の部分所有や部分的リースバックなど、不動産の所有のありかたを変えたい (②)
  • 新しい不動産投資商品を増やして顧客に販売したい (②)
  • 仮想通貨の世界の中に不動産資産に紐づく安定なトークンを提供したい (③)
  • 仮想通貨を発行して、発行者利益を得たい (③)
  • もしかすると「あれ、これってブロックチェーンを使う必要あるのかしら」と、思われる方もいらっしゃるかもしれません。いくつかに類型化してみました。

    ① 不動産の既存取引の DX

    このテーマはブロックチェーンのなかでもパブリックチェーンが大いに活用されるべき分野だといえます。不動産取引のプロセスには多くの無駄が存在し、それらを取り除くことは消費者にとって非常に有意義なことです。この PropTech や不動産DX、不動産テックの分野はブロックチェーンに限らず日本でも多くのスタートアップが挑戦しています。

    これらのサービスにも漸進派と急進派があります。既存のスキームの中で与えられた業界ルールを守って効率化する比較的穏健なアプローチをする漸進派のサービスは、不動産 SaaS などで不動産業界を変革しようとしています。一方で急進派は既存のプロセスをカプセル化(抽象化)して慣習や既存のルールを一部排除した上で取引を効率化するアプローチをとります。

    急進的なアプローチにおいては「なんとしてでも中央集権的なプロセスを排除したい」「仲介者をスマートコントラクトにより排除して P2P取引を実現したい」ということが優先されます。しかし、取引の安全性担保や、履歴改竄からのステークホルダー保護を実現するには 中央集権的なプロセスを代替するなんらかの仕組みが必要であり、彼らにとってパブリックチェーンはその解として注目されています。

    ここでは説明のため、便宜的に漸進派と急進派に分けましたが、実際には二極化しているわけではなくグラデーションです。急進的なアプローチを取ろうとするプロジェクトであればあるほど、立ち上がりやスケールに時間がかかっているように思われます。いわゆる Propy などのサービスはどちらかというと急進派にカテゴライズされると思いますが、成長と共に業界との調和の流れを歩むようになっているように見受けられます。

    ② 不動産投資の変革

    ブロックチェーンには NFTスタンダードの ERC-721 や、それを ERC-20 のトークンとして分割する F-NFTなどの分割所有方法があります。不動産においても分割所有およびその持分の取引を容易にする方法としてこれらの活用が注目されています。しかし「本当にこれらの仕組みを使うことが必要なのか」という問いに関しては、おそらく No でしょう。

    ②-1. 金融機関一社が新しい商品開発のために①のようなパブリックチェーンを使う必要性は全くありません。そもそも分散型台帳である必要すらなく、従来型の非分散型データベース (Relational Database) で十分でしょう。

    ②-2. 一方で、複数社で分割所有件を取引したいとなると話は変わってきます。この場合複数の企業間で「誰が権利を保有しているのか」を共有する必要があります。従来であれば、このような情報は証券保管振替機構(ほふり)と呼ばれる中央集権管理機関において一括管理されていました。現在ではこれらの取引の効率化のため、独自のインフラ基盤で証券を発行・管理する需要があり、新しい分散台帳技術が求められています。しかし必要なのは新しい分散台帳技術であり、ブロックチェーンそのものではありません。むしろ有価証券という性質を持つ対象をパブリックのチェーンに乗せて取引に関係のないユーザーに公表する必要はありません。そのため STO などでこの分散所有を実現する場合には Corda などの非ブロックチェーンのプライベートな分散台帳技術が主に使われています。(これらのサービスも一般には便宜上ブロックチェーンと言われています)

    既存の信頼されている金融機関が新しい商品を開発して、投資のスタイルを変革したいモチベーションは、実はこの段階で満たされています。そのため STO は上記 ②-2 の技術で実現されているケースが多いです。ここまではある意味で技術発展の既定路線であり、非常に理に適った進化なのですが、一方で②の文脈においても革命を狙う急進派が存在します。それが下記です。

    ②-3. 近年、パブリックチェーンにおいて不動産裏付けの NFT を販売し、国を超えた取引の実現を目指すプロジェクトが増えています。これは国による正式な証券としての裏付けがないので Security Token には該当しませんが、タイトル保険や特別目的会社に紐づく権利を持つことにより、Security Token に匹敵する法的なサポートを持っています。これらのプロジェクトは近年の DeFi の発展により飛躍的に数が増えています。多くのケースにおいてそれらのサービスは①の要素が混ざった主張をしており「このプロジェクトは①であり②ではない」と明確に分けることはできません。しかしそれらのサービスは①のアプローチで既存の不動産取引プロセスを刷新しようと試みると同様に、②においても既存金融機関の資産運用の立場に食い込もうとしています。ただしこのケースにおいては日本に限らず大きな問題があります。近年日本でも外国人による土地取得は問題になっており、さらなる法整備を求める声も上がっています。不動産という対象を考えたときに金融の観点だけでは測れない問題があるようです。事実、②-3 を目指すアメリカのプロジェクトでも本人確認が必要な上に、特定の国民しか土地を買えないなどの条件がつきます。

    ③ 仮想通貨における不動産裏付けのアセット需要

    仮想通貨の世界も新しい種類のアセットを求めており、フィアットの裏付けのあるステーブルコインの需要があるように、不動産による裏付けのある比較的安定したトークンに対する需要があります。また仮想通貨で多くの金融資産を手にした人が、仮想通貨以外に資産を変換したい、その資産化で税的な優遇を得たい、仮想通貨の使い道が欲しい、という欲求を抱えているケースもあります。

    この場合、あくまでもパブリックチェーンに紐づく仮想通貨で交換可能な不動産トークンが必要になります。また手段が目的化するようですが、上記のことが実現されてトークンが流通して上場できた場合、トークン発行者は莫大な利益を得ることができます。

    ブロックチェーンと STO

    この記事では「不動産ブロックチェーン」と言ってもさまざまなのモチベーションによりプロジェクトが始まっていることや、日本における STO の事例と、海外のパブリックチェーンを使った不動産ブロックチェーンプロジェクトの差について触れました。

    現時点ではどちらが優れているかは断言できませんが、大手の金融機関や既存の投資不動産プレイヤーは STO の方を好む傾向が強いので、業界のパワーバランスに注目が集まります。日本においてはまだパブリックチェーン上の不動産取引事例が出てきていません。今後どのようにそれらが展開されるのかも見ていきたいと思います。

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