今さら聞けない「STOってなに?」セキュリティトークンで不動産投資はどう変わるのか
ここ数年で 、不動産業界の中で STO という言葉を聞くことが増えたのではないでしょうか。ブロックチェーンを活用した仕組みとして注目を浴び、国内でも取り組みが増えています。改めて STO とはなんなのか。不動産投資においてどのように活用されるのか、基本を解説していきたいと思います。
STOとは何か
STOとは Security Token Offering の略で、「セキュリティトークン」と呼ばれる証券を表すトークンを発行して販売することで資金を調達する手法のことです。具体的には、金商法に定められる国債や社債、信託受益権等の有価証券や、不動産で言うと不特法に基づく出資持分などをトークンとしてブロックチェーン上で流通させることを指します。このことから、セキュリティトークンは「デジタル証券」とも呼ばれます。
不動産業界でSTOが注目されている背景
不動産業界で STO が注目されている理由は、事業者・投資家の双方にとって利便性が高く、流動性の向上や商品の付加価値を高められることが期待されるからです。
事業者側のメリット
トークン化することによって証券の流通にかかる管理コストが下がることです。これまで行っていた原簿管理など規制の遵守にかかる手続きはブロックチェーン上のプログラムで自動化されるとともに、ハッキングのリスクも低く、安全性を保てます。これにより、これまで管理コストが高かった小口化も容易になり、より多くの投資家が参加しやすくなります。また、これはSTO自体のメリットではないですが、セキュリティトークン自体が新しい技術であり世間の注目を浴びていることから、これまでアプローチしづらかった顧客層にも商品をアピールできる期待もあるのではないでしょうか。
投資家側のメリット
不動産への投資がより手軽になることです。インターネット上で簡単に購入できるとともに、小口化されることによりこれまで一部の投資家しか買えなかった高額な不動産にも少額から投資できるようになります。また、投資家間でトークンを売買(二次流通)することによって、不動産の運用期間中でも現金化ができるようになるため、購入のハードルが低くなります。また、既存の証券決済は数営業日かかっていましたが、トークンでの取引なら決済から清算までのラグが無く、24時間いつでも行えるようになり、グローバル市場での取引も容易になります。
また、将来の展望として、既存の不動産投資におけるリターンは収益を分配する仕組みがほとんどですが、施設に宿泊できる権利だったり何かしらのサービスを受けられるといった金銭以外のリターンを提供できるようになるほか、上場する市場がない等、従来流動性を持っていなかった商品が流動性を得る機会となることが期待されています。
日本での活用事例
神戸六甲アイランドDC
大阪と神戸の中間に位置し、日本マクドナルドと15年間に渡る定借契約を結んでいる物流センターである「六甲アイランドDC」が投資対象となっています。アセットマネージャーは三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社です。1口当たりの投資金額は約50万円、予想配当利回りは年率3.2%となっています。
葉山の古民家宿づくりファンド
株式会社LIFULLが Securitizeの日本法人と業務提携をし、不特法事業者向けにSTOスキームの提供をしています。Securitizeはセキュリティトークンを発行・流通するSaaSを世界中に展開している会社です。この取り組みではSecuritiseのプロトコルを使うことで複雑なシステム開発をせずに不特法の1号事業に基づくトークンの発行をすることができます。第一弾として「葉山の古民家宿づくりファンド」が一般個人投資家向けのSTOとして2019年11月22日から2020年12月15日に募集され1,530万円を集めました。想定利回りは年2%〜、一口5万円からの小さいサイズから参加でき、投資額に応じて投資対象の古民家宿に割引金額で宿泊することができます。
それぞれ詳細を他の記事でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
海外での活用事例
海外でもアメリカを中心に STO の案件数は年々増え続けています。例えば、2018年にコロラド州ロッキー山脈に位置する高級ホテルSt. Regis Aspenの一部所有権を裏付けとした STO では約20億円の調達に成功したことが話題となりました。
同時にSTOをサポートするサービスも多く登場しています。Securitize や Polymath、Harborのような、セキュリティトークンを発行し、法律に則った運用を自動化できるプラットフォームや、tZERO ATSのようなセキュリティトークンの二次流通ができる取引所が既に活用されており、セキュリティトークンの利活用については日本よりも何歩先も進んでいると言えます
一方で、アメリカにおける私募による資金調達は、STO に限らず Reg Dという規定が使われることが多いのですが、Reg D では1年間のロックアップ期間が必要となり、売り出しから二次流通までに時間がかかることや、ほとんどの場合募集に参加できるのは適格投資家のみであったりと、まだまだ一般に広がっているとは言い難く課題も残っています。また、証券として金融法の規制を受けるセキュリティトークンという形式とは別に、タイトル保険や特別目的会社の持分に紐づく権利をトークンに乗せるなど、様々なアプローチで不動産のトークン化を実現する取り組みも活発です。
日本での今後の普及の鍵は?
STO により不動産をトークン化することによるメリットの1つとして二次流通が可能になることを挙げましたが、日本国内では現時点でセキュリティトークンを個人間で売買できる取引所がありません。2021年4月にSBIグループと三井住友フィナンシャルグループが立ち上げた「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」でセキュリティトークンの取り扱いが開始されれば、より多くのSTOの事例ができ、市場の拡大に繋がると思います。私設取引所の活性化により東証の障害時にも取引可能になるなど、セキュリティトークンの利便性がますます広がるきっかけとなるのではないでしょうか。日本においても不動産を販売する手段としてSTOが身近になるのはそう遠くはない未来だと考えています。